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第二次聖鍵遠征軍とは、2回目の聖鍵遠征軍であり、正確な開始時期は不明だが、第一次聖鍵遠征軍がはじまった15年前から物語開始時点までのいずれかの時期にはじまったと思われる。司令官はのちの片目司令官。 魔界の片目の神の聖地開門都市の征服に成功する。 しかし、南部諸王国軍は総力戦のため、本国から出払っていたため、人界の南氷海極光島を南氷将軍率いる魔族軍に奪われた。そのため、南氷海の漁業や交易は大きく阻害されることになった。 第二次聖鍵遠征軍は、占領した開門都市に駐屯し、魔族を弾圧した。 3年目年始より、黒騎士(勇者)の命により羽妖精らが遠征軍士官らに幻術を仕掛け精神的に消耗させられ、さらに夢魔鶫により司令官(片目司令官)が毎晩悪夢を見せられたことにより戦意喪失。司令官は人界の南氷海極光島への援軍という名目で開門都市からの撤退を決意した。開門都市には東の砦将と500名の兵士しか残さなかった。 開門都市駐留時の兵力内訳 都市内部の治安維持部隊は、王族や貴族が中心。 中央砦 近衛隊(都市内部の治安維持部隊) 1,000 都市内部の交代要員・休暇中の兵士 1,000 北の砦 2,000 東の砦 2,000 西の砦 2,000 南の砦 2,000 合計 10,000 事件 戦争
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攻略チャート7へ 湖都レーニス 四天王がいるダンジョンで手に入れた4つの理の水晶柱を合成し理の聖杖を入手。 理の聖杖を手に入れたら 金牛宮より北に行き、山の切れ目を東へ、その後南に行き、2本の柱に行くと 自動的に理の聖杖を使用し、橋が架かって先に進めるようになる。 イベント後、橋を渡って北東の麿羯宮を目指す。 麿羯宮 ここでは体力の回復と回復アイテム等の補充が可能。 尚、道具屋では回復アイテムの他、火炎瓶、凍結瓶が買える。 ここの診療所にも専用のBGMが流れるコーヒーの自販機がある。 人馬宮 金牛宮側の出入口から入り処女宮へ。 処女宮 以前とは異なりバナン王国の兵士とゼビ王国の兵士がいる。 玉座にいるシンシアに話しかける。 天秤宮(正門を開けるまで) 麿羯宮から南東に行きその後北西に進むと辿り着ける。 ここでの天秤宮は正門を開けるまでと正門を開けた後の2回に分けて掲載する。 攻略するには先に準備として処女宮においてシンシアに話しかけておく必要がある。 そうしないと天秤宮に入っても全く反応なしだからだ。 準備を済ませた上で天秤宮に入るとシンシアのイベントあり。 攻略は先に主人公のパーティが西の砦を攻略し その後にシンシアのパーティが東の砦を攻略する形となる。 ちなみに主人公のパーティが東の砦に行こうとしてもシンシアに止められて入れない。 西の砦に入ると、以後シンシアのパーティが東の砦を攻略するまでの間、外に出られなくなるので注意。 回復ポイントの先にあるスイッチに触れるとシンシアのパーティに操作が変わる。 シンシアのパーティには戦闘メンバーにゲオルグがいて、控えに仲間モンスターがいる。 戦力のバランスを考えれば、闘拳烈破が使えるメタルホークと 新緑の牧歌が使えるセイレーンは戦闘メンバー入れておきたい。 その際は、控えの装備品を一部戦闘メンバーに渡しても良い。 ザコ戦は戦ってもいいが、シンシアのパーティ自体が弱いので、敵が強いなら無理せず逃げたほうがいい。 東の砦内を進んでいくとボスとしてエシャロット。ドギュン2体がいる。 基本はシンシアが1ターン目にプロテマを使い、以後は通常攻撃 ゲオルグがザコがいるときはブリザード、ボスだけになった時は通常攻撃 メタルホークは1ターン目から闘拳烈破を使い、セイレーンは新緑の牧歌で回復。 不幸にも誰かが死んだら、反魂水晶を使うかルサールカと入れ替えてアライヴで復活させる。 状態異常にはアマリ草を使い、途中でMPが切れたら、魔晶石で回復しよう。 このボスを倒しても、回復ポイントの先に進むと 再度ボスであるサイクロプス、ミリニグリ、シルヴィスと戦闘となる。これも基本戦法は上記ボス戦と同じだ。 尚、どちらのボス戦においても感電の可能性があることだけは気を付けよう。 ボス撃破後スイッチに触れると、晴れて正門が開き イベント後、主人公のパーティに操作戻って、以後出入り自由となる。 天秤宮(正門を開けた後) 正門を開けた後は他のダンジョンと同様に出入り自由となる。 但し、正門を開けた直後ではシンシアのパーティが攻略した東の砦には行けない。 正門から中に入ると専用のBGMが流れ、モンスターもサイクロプスやユニコーン等の 新しい敵が出るようになる。 1階にある紫の扉は今は開けられないので無視。 2階は真っ暗闇の為、たいまつ、ランタン、シャイン系の魔法のどれかが必要になる。 2階のベッドを調べるとクライノー2体と戦闘。倒すと夜魔の下着を入手。 ちなみに城内のスイッチを押すと針が引っ込んだり、閉じている扉が開いたりして先に行けるようになる。 3階にはリリスが出現する。これまでのシリーズではリリスはクリア後にしか出現しなかったが エルスの天秤3ではクリア前でもリリスが出現する。 この時点では無理に仲間にする必要はないが、可能ならば仲間にしたい。 ドロップアイテムのリリスの大蛇は、女性用だが素晴らしい能力を持つ防具なのでしっかりと数を揃え あわよくば仲間に・・・という感じでいいだろう。 同じく3階には闇商人がいる。どうやって中に入ったのかは詮索しないでおこう・・・。 闇商人がいた3階左側の回復ポイントの先にあるワープポイントでワープすると、ボスである黄煌龍がいる。 このボスはワイバーンやサラマンダーを呼ぶ。ザコがいると辛くなるので呼ばれたら速攻で倒す事。 黄煌龍の攻撃自体はそこまで驚異ではない。2回行動する事だけは気を付けよう。 ボスの黄煌龍を倒すと、龍の像が邪魔で開けられなかった宝箱が開けられるようになる。 最奥まで進むとボスである帝王マルコスがいる。近づくとイベント発生。更に近づくと戦闘となる。 このボス戦の前に黄煌龍を倒しておかないと、HP、MPが必ず1になるペナルティにかかってしまうので注意。 帝王マルコスは、必ず2回行動する上ギガメテオ、ダークスピア、エナジードレイン等を使ってくる。 油断すると全滅するので、回復は怠らないようにしよう。 HPが減ると補助魔法で強化してくるので、可能ならばイレイザーで解除しよう。 ボスを倒すとイベント発生。ラストダンジョンであるエルスの天秤に行けるようになり、更に東の砦の扉も開く。 更に処女宮においてシンシアを仲間にする事が可能となる。 エルスの天秤(ダンジョン攻略) 天秤宮の両サイドの砦から行ける、このゲームのラストダンジョン。 攻略前に天秤宮の東の砦においてサイコランチャー(ミミックメイジ出現)の回収をお忘れなく。 エルスの天秤内の戦闘BGMは魔界ではなく元の世界のものが流れる。 出現する敵も魅力的なものが目白押しでシヴァ、アシュラといった四天王として出現した敵や ソーサレス、ミシャクジ、低確率ではあるがリリスも出現する。 更にはソーサレス、ウイスプ、シルフ、ピクシーの妖精オールスターズや サティ、カークス、ウィンディーネの魔女っ子オールスターズも出現する。(ウィッチは仲間はずれ・・・) 入った直後の場所(天秤軸)でセーブが可能。又、ここの回復ポイントは何度でも使用可能。 更にトラエリアや飛翔石でもエルスの天秤に来ることが出来るようになり 以後いちいち天秤宮を経由しなくても良い。 最奥のラスボスがいる所に行ける道の直前にあるスイッチを操作すると 回復及びセーブ可能な天秤軸への近道が出来、以後天秤軸とラスボスがいる所との往復が楽になる。 又、スイッチを切り替えることで、取れなかった宝箱も取れるようになる。 最奥へ行くと遂にラスボス戦だが、それについては次のエルスの天秤(ラスボス戦)にて掲載する。 エルスの天秤(ラスボス戦) 最奥に行くと遂にラスボス戦。ラスボス戦は2ラウンド制で連戦となっている。 まずは、ラウンド1のサタナキアと戦闘。 ラウンド1の為、そこまで驚異というわけではないが、敵の魔法には気をつけよう。 倒すとすぐラウンド2の魔導兵器と戦闘となる。 自動的にラウンド1のサタナキア戦でのダメージは回復するので気にしなくていい。 魔導兵器は物理に強いタイプと魔法に強いタイプとがある。 これは数ターンおきに魔導ギアで変わるので、どちらにも対応出来るようにしておこう。 特に魔法に強いタイプの時は強力な全体魔法が次々と来るので注意。 敵がマシルドを唱えたら、消費MPの低い攻撃魔法を早く当てて、解除してしまおう。 自己回復はおよそ1300位回復してくる。この回復量はHPが減ってきたかどうかの目安にもなるので覚えておこう。 敵のHPが減った後の魔導ギアでパターンが変化。物理攻撃と魔法攻撃のどちらも効くようになり 自己修復の回復量が1300位から570位に減少。また敵の物理攻撃が銃やレーザーから剣になり 以後魔導ギアは使ってこない。 そして天界乱気流等の強力な全体魔法が来るようになるので回復は怠らないように。 表クリア ラスボスである魔導兵器を倒すと、遂にエンディングだが、まだエルスの天秤3全体が終わったわけではなかった。 クリア後に出現する謎の迷宮・・・。次の攻略チャートでは、そのクリア後(裏)の攻略をしていく。 攻略チャート9へ 攻略チャートに戻る
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<前11-5へ|次13スレ目へ> 魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」12-1 74 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/14(水) 22 16 20.80 ID NoxjAlgP ――開門都市近郊、聖鍵遠征軍、中央部 ザアアアアアア! ヒュバッ! ギンッ! ガキィン!! 大主教「どうしたのだ。その程度なのか?」 執事「それでも教会の頂点ですか。品のないっ!」 ズドン! シュダン! ヒュダンッ! 大主教「ふっ。殆ど隙が無く、動きも気配もない。 もちろん視認することは困難、限りなく透明に近い攻撃。 だが、いますこし突破力が足りないようだな」 執事(……っ! なんですか、あの防御膜は。 祈祷の防御呪文? 神聖加護ですかっ……) 従軍司祭「だ、大主教さまっ! 今お助けをっ」 光の槍兵「な、何が起きてるんだっ」 ゴオオォォォン!! 従軍司祭「ほ、捕縛呪だっ!」 大主教「要らぬ世話だっ! “光輝奪魂祈祷”っ!!」 従軍司祭「ぐふっ」 光の槍兵「え、あ……あぁっ! なんで、俺たちが……っ」 ひゅるんっ 執事(ここですなっ。はぁぁぁっ!!) ぎゅばんっ!! 大主教「ぐふぅああ!!」 どばっ! ぼたっ 76 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/14(水) 22 18 33.65 ID NoxjAlgP 大主教「我が腕をっ。素晴らしい」 執事「どれほどの魔力を持っていたとしても 実戦経験だけは補いがつきませんよ。 ましてやこの乱戦と雨の中。 間合いの読みあいでは相手になりませんっ」 きぃんっ! 大主教「ふっ。まさにな。戦の犬からも学ぶことはあると見える。 “接続祈祷”、“四肢再生祈願”っ」 びちゃぁ、にぎにぎ 執事「……っ」 ちゅぷ、くちゃぁ。 ――ころり、ころり。 執事「あなたは何者なのですか」 大主教「ただの人間だ。我は、人間。 そう……多少知恵のある、動物に過ぎない。 しかし、これでも聖光教会の頂点、大主教でもある。 光の呪力において、我にか無いものは大陸にはいない……」 光の槍兵「あ、ああ……。だ、大司教様が」 執事「下がっていなさいっ!」 大主教「それが温い」 ビュゥン! びちゃぁ!! 「ぐぎゃっ!!」 執事「っ!」 大主教「貴様ごとき放って置いても良いが、 貴重な学習をさせてもらったのだな。 実戦経験、か。 貴様からはそれを頂くとしようっ」 きぃん! ドギュン! ギン! ギンッ!! 82 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/14(水) 22 44 31.44 ID NoxjAlgP ――魔界、聖鍵遠征軍後方戦線、後方戦線 ザアアアアアア! 鉄国少尉「左翼、大盾前進60歩! 隙間を空けるな、まだマスケットの可能性はあるぞっ!」 ズギュゥゥン!! 軍人子弟「どうでござるか?」 観測兵「視界が悪いですが、命中しています。 でも、指揮官クラスをどこまで落とせたかは……」 将官「縦線塹壕、四分里完成しましたっ」 連合軍槍兵「装備を確認しろ、投げ槍の準備だ」 連合軍工兵「くそぅ、雨で指先が痺れる」 連合軍歩兵「相手も同じだ。油断するなっ」 冬寂王「この雨で、マスケットの一斉射撃が 無くなったのは有り難いな」 鉄腕王「こちらの長距離攻撃が、圧力を掛けている。 一斉射撃が使えないとなりゃぁ そろそろ向こうの陣地にも動きが出てくる頃合いだろう」 観測兵「敵陣地、動き蟻。中央部が大きく割れます。 突撃部隊とおぼしき展開、左翼および右翼には騎馬部隊確認!」 軍人子弟「数は!?」 観測兵「騎馬部隊、左翼右翼、共に約2千っ。 中央打撃部隊は重装甲歩兵、6千っ!」 鉄国少尉「この程度、ですか……?」 軍人子弟「おそらくマスケット兵は単機能の教練を施した 農民上がりの即席兵、マスケットによる一斉射撃はこなせても それ以外の運用では被害が大きいと判断したのでござろう」 鉄国少尉「ではあの部隊が」 84 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/14(水) 22 49 09.17 ID NoxjAlgP 軍人子弟「王弟元帥麾下の遊撃戦闘兵力。機動力の大部分」 鉄国少尉「どうしますか?」 軍人子弟「鉄腕王、ご采配を」 鉄腕王「勝敗は兵家の常だと、教えてやれっ」 軍人子弟「了解っ! 左翼および右翼に長槍兵を配置せよっ。 中央の重装甲歩兵部隊は、こちらの剣兵で迎え撃つ。 鉄の盾を微速前進っ! ライフル兵は引き続き正面部隊に対して打撃を継続っ!」 鉄国少尉「了解いたしましたっ!」 ライフル兵 がちゃり 連合軍槍兵 かちゃ 軍人子弟「諸君! 連合軍の諸君っ! 我らが魔界までやってきた目的の都市は眼前にある! あの都市は、今や聖鍵遠征軍二十万の包囲下にあるでござる。 聖鍵遠征軍は武力を持って開門都市の陥落を目指している。 我ら南部の国々は、長い間魔族との戦争を繰り返してきたっ。 それは我らが大地を守るための戦いであった。 今、魔族の大地が、我らと同じく人間の手によって 奪われようとしている。我らは自らの土地を失う哀しみを 知るゆえに、この侵略を見捨てるわけには行かないっ! 相手は魔族、それが敵であったとしてもでござる。 義によって助けるとは、拙者は云わぬっ。 この戦は新しい千年の幕開けのため、 自らが自らで居られる自由な大地を守るための戦いであるっ。 なぜならば、自由とは、他人のそれを守ることによってのみ 初めて、自分の権利を主張できるのでござるから。 我ら南部連合の誇りを掛けて、眼前の軍を討つっ!」 ライフル兵「連合軍、万歳っ!」 連合軍槍兵「大地のために!」 連合軍工兵「我らの明日のためにっ!」 93 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/14(水) 23 08 51.03 ID NoxjAlgP ――開門都市近郊、聖鍵遠征軍、中央部 ザァァァアアア! ザァァアアア!! 王弟元帥「何があったのだ。静かにしろっ!」 王弟近衛兵「お前らぁ! 静かにせんかぁっ!」 じゃきぃっ! 光の銃兵「お、王弟閣下だ!」 光の槍兵「元帥閣下! た、た、助けてくださいっ!」 従軍司祭「だ、大主教様が」 ゴオオゴオォォォl! オォオォオム!! ルギォォォォルゥゥム! ォォォン!! 王弟元帥「どうなっているのだ……」 光の銃兵「お、俺たちはただ食料が欲しくて……」 光の槍兵「そうです、俺たちはせめて今日の飯をもらおうと」 王弟元帥「よい。この部隊の指揮官は誰だ? 一歩前に出ろ」 カノーネ部隊長「わ、わたしであります」ざっ 王弟元帥「全ての騒ぎを収拾せよ。 わたしの名をもって争乱者を逮捕するのだっ。 無事な糧食は全て、後方陣地へとはこべっ!。 すぐにかかれっ! 我が軍からマスケット兵を差し向ける」 カノーネ部隊長「は、はひぃっ。そっ、それでっ」 王弟元帥「なんだ」 カノーネ部隊長「教会の天幕のあたりで、すごい電光や、 激しい音が……。見に行った連中も帰らないんです」 王弟元帥「……っ! 早くいわんか、馬鹿者がっ!!」 王弟近衛兵「後方陣地へ急げ。近衛部隊を回させろっ!」 94 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/14(水) 23 10 02.53 ID NoxjAlgP ――開門都市近郊、聖鍵遠征軍、聖光教会の天幕付近 ザァァァアアア! 光の銃兵「ひぃっ! 血、血がっ」 光の槍兵「こんなに沢山……っ。みっ、みんな死んでるっ」 王弟元帥「……すさまじいな」 王弟軍近衛兵「なにがあったんでしょうね。 ――そういえば、大主教はっ!?」 王弟元帥(いや、おそらく大主教が目的の凶行か、 そうでなければ、大主教が命じた凶行なのだ。 だとすれば、焦ったところで……) 光の銃兵「ど、ど、ど」がくがく 光の槍兵「どうしたら良いんですかっ」 王弟元帥「その辺の天幕を捜索せよ。一人にはなるなよ」 びちゃ、ぐちゃ…… 天幕の影「捜索の必要はない」 王弟元帥「大主教猊下っ」 天幕の影「賊は全て逃げたわ……。ふっふっふっ」 王弟軍近衛兵「ご無事なのですか? 今お手当をっ」 従軍司祭長「――」ガクガクガク 王弟元帥「……」 ぐちゅり、ぐちゅり 天幕の影「それにはおよばぬ。衣服が乱れてしまってな、 今身体を清めるゆえ、入ってきて欲しくはないのだ」 96 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/14(水) 23 11 15.97 ID NoxjAlgP 王弟元帥「賊は何者でしたでしょうか?」 天幕の影「我の命を狙った不埒な魔族の刺客であった」 光の銃兵 がくがくがくっ 光の槍兵 ぶるぶるぶるっ 王弟元帥「では、当面の間、この寝所の廻りは安全なのですね?」 天幕の影「そのとおり……。多くの信徒が我をかばってくれた。 今宵は彼らのために祈りを捧げねば。くふり、くふふ」 王弟軍近衛兵 ちらっ 王弟元帥 こくり 従軍司祭長「――」がくがく 王弟元帥「では、こちらの警備の方へと人を回しましょう。 また、攻略を目前に本陣ではいくつもの争乱が起きている様子。 取り締まりは、我がほうで手配をして宜しいか?」 天幕の影「たのむぞ、王弟元帥……。 我はそなたを我が腕のように大事に思っているのだ」 王弟元帥「はっ。承りました。もはや日が暮れます。 細々しい軍議は明朝にして、大主教猊下にゆっくりと お休みになられますように」 天幕の影「明日は素晴らしい日になるだろう。歴史に残る日に。 開門都市を精霊の恩寵の元、取り戻す日になるのだから」 王弟元帥(取り戻す……) 従軍司祭長「――」ごくり 王弟元帥「では、失礼して指揮に戻らさせて頂きます」 ザァァァアアア! 119 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/14(水) 23 51 43.33 ID NoxjAlgP ――開門都市、南大通りを見下ろす防壁 ザァァァァァァ! ザァァァァァァ! 獣人軍人「冷えてきたな」 土木師弟「ええ、おそらくもう日が消えます。 雨のせいで判りませんが」 東の砦将「どうなっている?」 義勇軍弓兵「動かないでください。包帯が巻けません」 鬼呼抜刀隊「六、七……八番隊まで確認。 どうやら日没とこの雨で敵は後退した模様」 獣人軍人「やっと、か」 土木師弟「マスケットが雨で使えなくなったのが大きいですね」 東の砦将「しかし、大門周辺はずいぶん取られたな」 義勇軍弓兵「ええ……」 鬼呼抜刀隊「決戦は明朝夜明けですか」 獣人軍人「この雨がいつまで持つかによるでしょうが」 土木師弟「ちょっと不自然な気がしますからね」 東の砦将「ん?」 土木師弟「この地方でこの季節に、ここまでの豪雨は珍しい」 東の砦将「そういえば、そうだな」 義勇軍弓兵「どうしますか、司令官」 東の砦将「そうだな……」 120 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/14(水) 23 53 13.51 ID NoxjAlgP 鬼呼抜刀隊「いっそ夜襲を掛けて、切れるだけ切ってやりましょうか」 獣人軍人「夜襲ならば、地の利のあるこちらが圧倒的に有利です」 東の砦将「辞めておけ」 鬼呼抜刀隊「なぜ?」 東の砦将「俺たちの出番は、そこじゃねぇよ。 おそらく、明日の朝までに次の手が撃てないようじゃ……」 義勇軍弓兵「?」 土木師弟「……そうですね」 ふわふわ、ふわぁん。とことことこ…… 東の砦将「?」 ふわり 小妖精「くりるたい」 義勇軍弓兵「なんだ? 妖精族かい、おまえは?」 鬼呼抜刀隊「どこから来たんだ? おちびさん」 東の砦将「忽鄰塔?」 小妖精「くりるたいニ呼バレテキタ」 獣人軍人「どういうことなのだ?」 小妖精「魔王様ハくりるたいヲ招集サレタ。コノ街デ。今晩」 123 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/14(水) 23 59 29.84 ID NoxjAlgP 土木師弟「まさか、こんな戦地で!?」 東の砦将「ははははっ。ようし! お前らっ!!」 義勇軍弓兵「はいっ?」 東の砦将「勝ち目が出てきたぞ。補給部隊を編制しろ、 隊伍を組んで人数確認。周辺の家だったらどこでも良い。 後でこっちがお詫びしてやるから分宿だ。 ねぐらを探して入り込め。交代で休憩だ。軍人っ」 獣人軍人「はっ!」 東の砦将「おそらく、ここの防衛軍には4千人からの俺たちの兵士が いるはずだ。把握し切れちゃいないが、再編成しろ。 2時間でやれ。隊長格を片っ端から格上げして、 500ずつ八つに分けて掌握させておけ。 土木子弟さんよっ」 土木師弟「はっ」 東の砦将「悪いが、大通りに防衛柵を作るために作業を 指示してくれ。それから、人数を庁舎に回して食料を運ばせる。 全部出させるぞ。おそらく、雨は明け方にはやむ」 土木師弟「そうですか?」 東の砦将「おそらく、な。止んだ時点で炊き出しをする。 準備をしておいてくれ。女衆もあとでいかせるからな」 土木師弟「はい」 東の砦将「お前ら、よく聞いてくれ! 魔王が忽鄰塔を招集した。 あの思慮深い魔王が苦し紛れに援軍を呼び集めるわけがない。 絶対にある。 逆転の秘策がな。だから、今晩は耐えろ。 俺たちの後ろには、あの切れ者の魔王がついている!」 136 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/15(木) 00 17 25.76 ID SB4LPYUP ――開門都市、南大門付近、薄い布で遮られた天幕 ザァァァァー 光の銃兵「寒いな」 光の槍兵「ああ、冷たい雨だ」 ぼちゃ、ぼちゃ、ぼちゃっ カノーネ兵「もうちょっと詰めてくれ」 光の銃兵「無理は言わないでくれ、この天幕はもう一杯なんだ」 光の槍兵「そうだ、他を当たってくれ」 カノーネ部隊長「詰めてやってくれないか。 どこも瓦礫ばかりで、雨をしのげる場所は殆ど無いんだ」 ザァァァァー 地方領主の私兵「ははははっ。酒を回せっ!」 斥候兵「くそっ」 光の銃兵「誰か食い物を持っていないか?」 光の槍兵「……」 カノーネ兵「……」 農奴槍兵「腹、減ったな」 農奴突撃兵「ああ」 光の銃兵「なぁ、これで終わるのかな」 光の槍兵「……」 カノーネ兵「聞いた話じゃ、これから魔界の都市を いくつも攻めるんだと。 貴族一人に付き、一つづつの街を与えるために」 農奴槍兵「それじゃ、帰るなんて出来やしない」 農奴突撃兵「ああ……」 138 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/15(木) 00 18 39.58 ID SB4LPYUP 光の銃兵「いま、何時くらいだ」 光の槍兵「まだ日が暮れてから3時間ってとこだろう」 カノーネ部隊長「今夜は寝れないな」 カノーネ兵 こくり 農奴槍兵「なんでだ?」 斥候兵「寝ている間に魔族が攻めてきたら、 反撃も出来ずに死んじまう」 農奴槍兵「こんな真っ暗な中でかよ?」 光の銃兵「ここはあいつらの街なんだぞ。 あいつらが生まれ育った街なんだ。 暗闇だって自由に動けるに決まっているじゃないか。 俺だって自分の村ならそれくらい出来るさ」 光の槍兵「……」 カノーネ兵「……そうだよな」 農奴槍兵 こくり 農奴突撃兵「……ここはあいつらの住処だもんな」 地方領主の私兵「はぁっはっはっ! 今日は前祝いだ!」 斥候兵「実は、俺たちの後方には、南部連合の軍も来ているらしい」 光の銃兵「南部連合? 湖畔修道会の?」 光の槍兵「魔族との戦いの援軍に来てくれたのかっ」 斥候兵「いいや、違う。“他人の土地を力尽くで奪うのは 光の精霊の教えではない”――だってよ」 農奴槍兵「……」 農奴突撃兵「そうか……」 光の銃兵「いいさ。とにかく少しでも、身体を休めよう。 日が開けたら、好きだろうが嫌いだろうが、 殺しあいをしなきゃならないんだ」 144 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/15(木) 00 25 00.28 ID SB4LPYUP ――開門都市、中央庁舎、夜半 紋様の長「忽鄰塔、ですと!?」 火竜大公「そうだ」 紋様の長「なぜそのような。このような危急の時に」 火竜公女「このような危急の時だからでありまする」 紋様の長「公女。ではなぜそこに魔王どのがおられぬ」 青年商人「魔王殿は行かれましたよ」 火竜大公「……」ばふぅ 紋様の長「どこに!?」 鬼呼の姫巫女「魔王殿は、この青年に自らの代理を任せて、 外へと行ったのだ。供さえ連れずにな」 妖精女王「……魔王さま」 東の砦将「街はまだ危険な状態だって云うのに」 火竜公女「……仕方ありませぬ。止められぬものがあるのですから」 青年商人「忠誠を誓うのと、頼り切るのは自ずと意味が 違うはずでしょう。魔王殿は魔王殿の仕事をされるために 自らの役割を全うされに行ったのですよ。 実際問題、それがなんなのかは判りませんけれど、 あの二人は一緒にいないと性能が著しく落ちる気がしますし」 火竜大公「黒騎士殿か?」 火竜公女「さようでござりまする」 紋様の長「代理と云われたがあなたは何者なのだ?」 145 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/15(木) 00 26 47.02 ID SB4LPYUP 青年商人「取るに足りない商人です。縁あって魔王殿と 人間界では幾つかの商いを共にさせてもらっておりました」 火竜大公「魔王どの公認の、魔王とでもいうかな。 身元は、我ら竜族が引き受けよう。 我が後見を受けて居ると思っても良い」 紋様の長「そうでしたか」 鬼呼の姫巫女「この青年がどのような力を持っているかは判らぬが この青年の言葉を受けた魔王の顔にみるみる生気が蘇り、 いくつもの策を授けた後に街へと飛び出したのは真実だ」 妖精女王「魔王様が心配です」 東の砦将「では魔王の策ってのは、なんなんだ?」 青年商人「それを説明する前に、魔王殿の望みを説明しましょう。 魔王殿の願い――狙いは講和です」 紋様の長「講和、か」 鬼呼の姫巫女「うむ」 東の砦将「……」 火竜公女「驚きませぬね」 火竜大公「皆もうすうすは判っておったよ。 あの魔王殿は、どこまでもどこまでも困難な道を歩まれるとな」 紋様の長「しかしこのような逆境にあって」 鬼呼の姫巫女 こくり 青年商人「さて、始めわたしはこの開門都市の放棄を 考えていました。この開門都市を聖鍵遠征軍に明け渡し、 もちろん糧食や財産を持ってですが、魔界奥地へと撤退する」 火竜大公「……」 147 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/15(木) 00 29 22.17 ID SB4LPYUP 青年商人「そのような策を、二、三の都市で繰り返せば 聖鍵遠征軍はそれぞれの都市を守るために、 防御部隊をさかざるを得ない。 人間界からの補給線は長く伸びきるでしょう。 そうして少人数に分散したところを討つ」 東の砦将「うむ」 青年商人「砦将、この戦術をいかが思いますか?」 東の砦将「そのようにすれば、被害は出ても勝利は 間違いなかっただろうな」 青年商人「わたしもそう思います。魔界は大きい。 撤退をしながら各個撃破をしてゆけば勝利は手に入る。 重ねて云いますが、この策は今からでも可能です。 そうすれば、勝利だけならば手に入る。 しかし、魔王殿はそれでは不満だという。 魔王殿が願うのは勝利よりももっと先にあるものだからです。 あの人は、基本的に欲張りなんですよ」 火竜大公「はっはっはっは」 紋様の長「確かに」 青年商人「魔王殿が願ったのは、聖鍵遠征軍との講和です。 この際、期間は問わない。短時間の休戦でも良い。 まずは同じテーブルに着き、話合う。 そうしなければ魔界と人間界の未来は 血塗られたものになってしまうでしょうからね。 もし先ほどの作戦を実行に移し、 この開門都市を聖鍵遠征軍に明け渡せば、 この都市は徹底した略奪に合うでしょう。 民は逃げ出せたとしても、犠牲者は奴隷にされ売られますし あらゆる神殿からは装飾がはがされ、公園も噴水もアーチも 全てが破壊される。 そうなれば、この都市を大事に思う住民は聖鍵遠征軍を許さない。 また、撤退しながらの反抗作戦、焦土作戦は成功するでしょうが それでは次の遠征軍にはどうするのか? また同じ作戦で迎え撃つのか? そのような考えは通らない。 1回そうなってしまえば、魔界側から人間界へと攻め入り 禍根を断つという議論もわき起こるに違いない。 講和のチャンスは、この都市を奪わせてはいない、今が最後です」 148 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/15(木) 00 31 05.27 ID SB4LPYUP 火竜大公「しかし、我らが都合だけで出来ることではない」 紋様の長「そうです。我らが如何に望もうが、 彼らが認めなければ講和はならない。 そもそも人間がこの魔界へと侵攻してきたのではないですか」 鬼呼の姫巫女「しかり」 妖精女王「……」 東の砦将「まぁ、なんだかんだ云って 上の方と講和がなったとしても、もう戦いの疲労も激しいし、 前線は血に酔っている。この雨で少しは頭が冷えるだろうが」 火竜公女「やはり、難しいのでありまするか……」 青年商人「いえ、まずは問題を分解するべきです」 火竜大公「分解とは?」 青年商人「“解決できない理由ではなく解決策を考えろ” これは我らが商人のことわざです。 まず第一に、講和に反対する勢力は魔族の中にはいるのですか?」 火竜大公「ふむ、それはいるだろう。 この戦で家族を失ったものとてすでにいるのだ」 紋様の長「はい」 鬼呼の姫巫女「そうだな。だが……。 こう言っては悪いが、今ならば、まだ間に合うともいえる。 先ほどの話にもあったが、戦には負けた。家族は失った。 しかも守るべきだった都市は奪われた、 では納得も行かないだろう。 都市を守りきってこそ、遺族も死に意義を見いだせるのだ」 妖精女王「そうですね……」 青年商人「もちろん我らから出来る限りの配慮はしましょう。 では、魔族側の表だった反対勢力はないと云うことで、 この件は一旦よいと云うことにしましょう。 ――忽鄰塔で見てもらう、と云うこともありますしね。 次の問題は、人間側です」 火竜大公「それが最大の問題だ」 149 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/15(木) 00 32 47.68 ID SB4LPYUP 青年商人「魔王殿がわたしを代理に選ばれたのも、 それが理由の一つです」 鬼呼の姫巫女「とは?」 青年商人「わたしが人間で、人間の事情に明るいからです。 あそこに集まっている多くの人間も、一枚岩ではないのです。 あの中には四つの勢力がある。 四つの勢力は、それぞれの理由があって魔界へと攻めてきた。 全てを一緒に考えては、物事が解決しないでしょう。 一つ一つ個別に解きほぐす必要がある」 火竜大公「よっつ……?」 紋様の長「聞こう」 青年商人「まず第一に、貴族や国王達です。 彼らは欲に駆られてこの地にやってきたのです。 略奪をするため、新しい資源を得るため、奴隷を得るため。 そして何よりも、新しい領土を得るために、です」 火竜大公「ふむ」 紋様の長「欲深い亡者め」 鬼呼の姫巫女「とはいえ、それは理解できる。 例えば蒼魔族がそうであった。正邪を云えば切りはないが 欲望は我ら魔族だとて持たないわけではない。 それは戦乱の歴史が証明している」 青年商人「彼らを説得する方法はありません。 所詮は豺狼の輩なのですからね。言葉が通じるはずがない。 とはいえ、彼らは欲に駆られているゆえに、ある意味敏感です。 勝ち目がないと判れば、容易く尻尾を丸める。 彼らの兵力は、あの20万のうち、 おおよそ数万と云うところでしょう。 彼らだけでこの遠征を維持する力は到底ないのです。 ですから、彼らへの対応は後回しでよい。 他の全ての勢力が引き上げれば、彼らも引き上げざるを得ない」 155 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/15(木) 00 45 05.92 ID SB4LPYUP 火竜大公「続けてくれ」 青年商人「次には聖王国、王弟元帥です。 彼は通常の諸侯や王族とは違う。彼独自の思惑があるのでしょう。 その思惑とは、聖王国の権威を高め、 中央大陸の意思を統一するということ。 そのためには、魔界への攻略が必要だった」 鬼呼の姫巫女「なぜ?」 青年商人「人間界では、もはや褒美として与える土地が ないからですよ。簡単に云えばね」 妖精女王「そんな理由で……」 東の砦将「くだらねぇ貴族の思惑だな」 青年商人「――それが私欲とは言いません。 実際問題、意志の統一がされれば人間同士の戦は減るのです。 魔界でたとえるならば、彼は魔王を目指しているのですよ。 野望は大きいが、同時に彼は利にも聡い実際的な人間です。 彼があそこに立っているのは、 あの場所がまだ彼に利をもたらすからでしょう。 彼の説得は並や大抵のことでは出来ない。 ……まぁ、手札の一枚や二枚はありますがね。 魔王の言葉を借りるなら、後に禍根は残したくはない」 紋様の長「残りの二つは?」 青年商人「次は教会です。聖光教会は、地上で崇拝されている 光の精霊を崇める教会のうち最大のもので、この聖光教会が 今回の遠征の理論的な背景となっている。 教会は独自の兵力は殆ど持っていませんが、 今回の遠征軍はその全員が教会の信者だと云っても良いでしょう。 彼らは、この開門都市には 光の精霊の宝物『聖骸』があると主張している。 それを取り返すための、聖なる遠征なのだというのが 今回の戦争の大義名分なのです」 鬼呼の姫巫女「そのような物は存在しないのに」 青年商人「最後の一つは、今回の遠征軍の最大多数を占めている ごく普通の民、農奴達や開拓民、志願兵達です」 157 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/15(木) 00 47 32.59 ID SB4LPYUP 東の砦将「そいつらも勢力に数えるのか?」 青年商人「20万人のうち、優に15万人はいるのですからね。 彼らを動かしているのは、死への恐怖、教会への恐怖。 そして魔族への恐怖……。つまり、色んな種類の絶望や恐怖です」 火竜大公「飢餓……か」 青年商人「ええ。それはとても大きい。 そして飢餓以外にも異質な存在に対する恐怖も また、大きいのです 魔族と人間の間には殆ど交流らしき交流がなかった。 それが恐怖を育てたともいえます。それを教会や 貴族達が利用しているのですね」 火竜公女「その四者を攻略しなければならないのですね?」 青年商人「そうなります」 火竜大公「貴族や王達は、後回しにすると云っていたな? では、残りは三者か。何か、案があるのか?」 青年商人「まず、教会ですが、これは魔王殿の仕事です」 鬼呼の姫巫女「は?」 青年商人「教会にももちろん勢力拡大などの欲求はあります。 この欲求は、つまりは経済行為ですね。 ですからそれに対抗する策はわたしでも取れる。 その部分については何らかの策を考えることも出来るでしょう。 しかし“魔族は光の精霊の子なのかどうか?”とか “光の精霊の宝である聖骸は実在するのか?”などという 論争は、これは宗教的な問答であって、 わたしの専門とするところではありません。 魔王殿に任せます。 もし何らかの神殿の司祭なり神官長が 引き受けてくれるなら、それでもよい。 大事なのは、まず戦争を止めることです。 そのためには間隙が必要なのですが、どうなのですかね。 教会というのは、そこまで狂っているのですかね……」 160 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/15(木) 00 53 19.32 ID SB4LPYUP 鬼呼の姫巫女「狂う……?」 青年商人「この開門都市には光の精霊の宝物『聖骸』がある。 その言い分は、どこまでが本音……信仰で、どこまでが 利益を得るための本音なのか? 信じているのは、教会の中で何割いるのか? いや、何割などと云う多い数ではなくて、 もしかして、ほんの一握りなのではないかとすら思います。 ……そもそも、あの第一次遠征軍からしてがおかしいのですから。 しかし、当面必要なのは、間隙です。 ……少なくとも、教会が一時的にひるめばいい。 教会が指導力を一時的に発揮できなくなればそれで十分です。 こちらが欲しいのは、交渉の可能性と時間的猶予ですからね。 そうして、一瞬のひるみが間隙を産めば 実際に交渉を成功させる材料は別にある」 妖精女王「しかし、ひるませるとは云っても」 火竜大公「それについては、よかろう」 紋様の長「しかしっ」 青年商人「どういう事です?」 火竜大公「任せろ、と出掛けたものがいるからさ」ぶふぅ 青年商人「やれやれ」 火竜大公「他にも考えなければいけないことは多いのだ」 鬼呼の姫巫女「となると、元帥とやらか」 青年商人「次は、王弟元帥。 あの聖鍵遠征軍の軍事的な背骨ですね。 彼を引かせる必要がある。 やっかいなのは、彼が単独で立っているのではないという事です。 彼はその軍事的才幹とカリスマ性により、 王族や民衆、そして教会からの信任を受けている。 逆にいうと柱を一本くらい外しても彼は倒れないし、 支えている柱の側も彼の保護を受けているから なかなかに崩れない。 では、彼を取り除いてしまえばよいかというと それもなかなかに考え物です。彼を取り除いてしまえば あの遠征軍は確かに烏合の衆になるかも知れませんが 逆に言うと、収拾のつかない暴徒の群になる可能性も高い」 火竜大公「どうするのだ?」 162 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/15(木) 00 56 19.08 ID SB4LPYUP 青年商人「手はあります」 東の砦将「あるのか!?」 火竜公女「これでも悪辣、陰険、非道、冷血漢の名を 欲しいままにするほどの男ゆえな」 青年商人「放っておいてください。 ……魔王殿が長年暖められていた策もありますしね。 しかし、これがなかなかに難しく、二つ懸念がありますね」 妖精女王「二つの懸念とは?」 青年商人「教会をひるませる、と云う策です。 この策が早すぎても遅すぎてもいけない。 ひるむというのは、おそらく一時的なものでしょうからね。 精神的に立て直して、教会が王弟元帥の援護に回ると困ります。 援護そのものと云うよりも、教会と王弟元帥が一枚岩だと、 切り崩すのは難しい……。 タイミングは、説得とあっている必要がある。 ここまで来れば、運否天賦です。 もう一つは、聖王国および、王弟元帥の意地です」 東の砦将「意地か。判る気もするな」 火竜公女「殿方は、それが大きくてかないませぬ」 青年商人「こればかりは、損得とは別の話ですからね」 火竜大公「ふむ。……商人殿。 全てをならしてみて、この話の勝率はどれほどか?」 青年商人「ただこの場を生き残るだけならば、4割。 数週間の休戦ならば2割。 講和、平和条約となれば、これはもう奇跡の類かと」 紋様の長「それほどに細い道か」 鬼呼の姫巫女「何故に?」 青年商人「無知があるからです。人間側にも、魔族側にも。 わたし達は出会いました。出会って、日にちが浅すぎるのです。 互いの違いと共通点を知り合おうとせずに、 傷つけ合ってしまった。互いに互いが怖いのですよ。 損得で話をまとめたとしても、そこは変えようがない」 166 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/15(木) 01 00 52.89 ID SB4LPYUP 火竜公女「しかし、それでもあの方なら云うでありましょう。 平和など一時の幻想だというならば云うが良い。 幻想の平和の一年は戦乱の十年に優れる、と。 それに、平和な一年があれば、次に十年平和にするための 努力が出来まする」 火竜大公「この歳になって奇跡を信じるようになったよ。 わしはな。この世界には、ずいぶんと頓狂なものがいる」 青年商人「やれやれ。たいがいに楽観主義ですね」 火竜公女「思い悩んでも救われないゆえ」 紋様の長「あの方らしい」 鬼呼の姫巫女「だが、備えだけはする必要があるだろう。 我も氏族の命を預かる身なのだ」 妖精女王「人間の、南部連合の王族もこの南2里のところに 陣を構えています。我らを助けるためにはるばる駆けつけ、 我らの動静を見守っているのです。 我らが信頼に足る隣人かどうかを」 東の砦将「全面的な戦争になれば、世界をどん底に落としかねないぞ」 火竜公女「見せてやれば良いではありませぬか。 我ら魔族の度量と実力、そして勇猛さ、誠実さを。 そのために、忽鄰塔を招集したのです」 火竜大公「すでに報せは魔界を駆け巡っていよう。 即日は無理であろうが、夜が明ければ、近隣の小氏族の長は 次々とこの都市へと集まってくる」 紋様の長「忽鄰塔……」 鬼呼の姫巫女「二度目の、忽鄰塔か」 東の砦将「二十万の軍が、この街を包囲している。 入ることは出来ないんだぞ? どうして呼び集めたんだ」 火竜公女「見て欲しいのです」 東の砦将「見る?」 火竜公女「知らないというのならば、見て欲しいのです。 人間を……。魔族とどれほど違い、どれほどに同じなのかを。 もはやいい加減によいでしょう。これは我ら全員の問題なのです。 見るだけで良い。森の中からでも、地の果てからでも。 明日には、何か一つの結果が出るのですから。 もし奇跡が起きるのならば、その証人が必要でしょう」 171 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/10/15(木) 01 11 39.09 ID SB4LPYUP ――開門都市、南側、瓦礫にまみれた廃屋 ザアアァァァ…… ――雨、か。 ――強いな、こんなに降って。身体の感覚が、遠い。 ――まだ夜なのか? 戦いはどうなったんだ? 勇者「っ!」がばっ 魔王「無理をしては駄目だぞ」 勇者「魔王っ! っく! 痛っ」 魔王「動くな、傷に障る」 勇者「ここは!? 今は、戦は、なんでここにっ」 魔王「慌てるな。ここは開門都市の廃屋だ。 時間は雨が降り出した夜の、おそらくは真夜中過ぎ。 なぜここにいるかと問われるならば……。 我慢しきれなかったのだろうな」 勇者「どうやって……」 魔王「夢魔鶫が連れてきてくれた。主上が死にかけている、とな」 勇者「……いくさは?」 魔王「だめだ」 ぎゅぅっ 勇者「……っ」 魔王「今は、駄目だ。朝まではどちらの軍も動けぬ。 ここは戦場の中心部からは外れているし、 おそらくどちらの兵も身を潜め、ここまでは来ないだろう。 今だけは、大丈夫だ。だから、動いては駄目だ」 勇者「うん……」 魔王「勇者には隠していた、大事な話があるのだ」 ページトップへ <前11-5へ|次13スレ目へ>
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4/6 軍略体験してみよう 軍略名:董旻迎撃 場所:長安 時間:20:00以降 みんなが集まり次第 参加制限:LV制限があるようです LV16~20 参加人数:10名 コメント レベル上げとしては、いいとはいえないらしいです。 けど、体験、みんなで攻略したいと思います。 ちなみに、舞もしたことありません~。 結果 参加人数6名でした。砦3箇所(北、東、南)を守るとのこと。 1回目砦の2箇所の入口から敵が流れ込んできて守備大将撃破され失敗。2回目南砦をみんなで死守。死ぬと移動が長かった。南を落とされた後東の砦死守。 守備大将撃破され失敗。 3回目復活地点から一番近い東の砦死守。死んでもすぐ復活してゾンビアタックw 守備陣内の大将、兵にも活性化が掛けれることに気がついた。 1回の攻撃で西・東の入口から3名ずつ入ってくる。両サイドに防御配置、丹3、攻撃1。 2回目の攻撃で大将撃破され失敗。(でもいい感じだった) 4回目も3と同じ構成。今までは徒党員を回復していたが、すぐ復活できるので守備大将を 回復することにした。回復を連打することでタゲが一斉に集まり。死んで復活しても タゲがきた。復活するたび回復連打。守備大将を設定時間時間守り抜き見事勝利となりました。 結果は画面連打してたので、舞は見てませんが 評価はCだったようです。 みんなが一丸になり守る姿を見て嬉しかったです。 まだまだ色々みんなで体験して楽しんでいこうと思いました。 今日はみなさんお疲れ様でした^^
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大通りとは、魔界開門都市の大通りである。 3年目晩夏、連絡議会の当日、東の砦将の提案による人族と魔族の交流目的で東方風の祭りである縁日が開かれた。 初出 3-1 3スレ82レス 2009/09/08(火) 19 13 27.57 ――開門都市、大通りの縁日 地名 開門都市の地名 魔界の地名
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クリア後に徐庶が加入。 関羽が精鋭騎兵だった場合、朱風隊に昇格可能。 評定 鳳統→徐庶を説得する(徐庶が戦闘中に寝返る) 関羽→兵を募集する(兵力が9上昇。兵数が約900人増加) 姜維→敵に偽情報を流す(曹操軍の兵士数が10%減少) オススメは鳳統案。これを選ばなくても徐庶はクリア後に加入するが、1部隊を寝返らせるのは大きなアドバンテージになる。 終盤に加入する徐庶を育成するステージを増やすという意味でもこれを選んでおきたい。 軍議 関羽→敵を東の砦に誘導 趙雲→敵を西の砦に誘導 鳳統→敵を一部撤退させる 勝利条件/劉備が到達地点に着く 敗北条件/劉備が敗走する、時間切れになる 部隊 味方部隊 部隊長 小隊長 小隊長 小隊長 備考 劉備 理理 瑠瑠 - 歩4、弓1 孔明 (祝融) - - 歩5(歩4、象1) 関羽 関平 周倉 - 騎4、槍1 趙雲 - - - 歩5 鳳統 姜維 (魏延) - 弩4騎1(弩3、騎2) - - - - 味方増援 部隊長 小隊長 小隊長 小隊長 備考 - - - - 敵部隊 部隊長 小隊長 小隊長 小隊長 備考 張遼 - - - 西の砦を防衛 曹仁 - - - 東の砦を防衛 徐庶 - - - 砦の外で遊撃評定で鳳統選択時は発見時に寝返り 徐晃 - - - 砦の外で遊撃 典韋 - - - 砦の外で遊撃 曹洪 - - - 砦の内側 程育 - - - 砦の内側 宇禁 東旋風 西旋風 - 砦の内側 奉徳 郭嘉 - - 砦の内側 - - - - 敵増援 部隊長 小隊長 小隊長 小隊長 備考 - - - - イベント 攻略 電撃戦と言うなら速攻でクリアできるのかと思いきや、敵を全滅させるまでクリアするのは難しい。 まあ、全滅させた方がおいしいから良いのだが…上手な電撃戦のやり方はあるのだろうか。 評定で鳳統案を選んだ場合、こちらが徐庶を発見すると寝返る。視界に捉える前に奇襲された場合は戦闘になるので注意。 敵の前衛(徐庶、徐晃、典韋)は東or西側の北、中央、南の6か所くらいにランダムで配置されてる予感。 軍議で誘導した側に配置されやすくはなるが、100%ではない。 城門を守る張遼と曹仁以外は劉備が発見された場所へひたすら進軍する。 張遼と曹仁も、何らかの条件で城門を開けて攻撃してくる。要調査。 この二つをうまく使えばほとんど戦闘せずにクリアすることもできそうだが…… 鳳統は敵を視界に捉えて待機させると遠距離攻撃でダメージを与えられる。城門の防御部隊にも攻撃可能。門が開く頃には壊滅寸前になっている。 蛇の陣にすると前方への射程が長くなるので遠距離攻撃しやすい。 関羽→敵を東の砦に誘導 あまりうまくない作戦。運が悪いと峡谷の出口に敵がいてひたすら1対1で戦い続けるしかなくなる。 どうせ東西で移動距離は大差ない。確実に進軍できる他の案を選ぶ方が良い。 趙雲→敵を西の砦に誘導 森は迂回路があるのでほぼ確実に城門まで行ける。 関羽を速攻で城門まで走らせ、他の部隊は敵の前衛部隊を迎撃する。 東門を破壊した頃に張遼が城門を開けて西側から攻めて来るので、東門と中央道の両面で迎撃作戦。 そんなことをしてるうちに敵を全滅させているはず。 鳳統→敵を一部撤退させる コレが一番オススメ。敵の前衛部隊が徐庶と徐晃だけになり、城門破壊までがスムーズになる。 砦内には張遼、曹仁、程育がいる。程育は恐らく、劉備が発見された側へ移動する。 西側に敵部隊がいると峡谷で遭遇するので1部隊でしか戦闘できない。趙雲と鳳統(遠距離攻撃)で対処し、劉備は東を進軍すると良い。 ある程度時間が経過すると撤退した部隊が全員帰って来る。上級では残り時間75%程度? 撤退組は劉備を狙って進軍する。一方の砦に全軍が集まるので、城門の前で待ってるだけで各個撃破可能。 劉備だけこっそり反対側の門を通ってクリアしようとしても気付かれる。なぜだ… 自軍は6部隊(徐庶の寝返りがない場合は5部隊)なので、上手に各個撃破している間は全員が戦闘に参加することはできない。遠距離攻撃ができるのは劉備隊と鳳統隊なのでこの二人を後衛に置くと良い。 コメント 名前 コメント
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タートナック軍を撃破せよ! LV2 バトルエリア 影の宮殿 有効属性 光 制限 アゲハ Sランク勝利 日傘LV2 バトル勝利 なし 宝 ハートの器・かけら(アゲハ)・スタルチュラ×2 戦場情報 自軍 リンク ミドナ ハイラル隊長 敵軍 ザント タートナック 戦況 勝利条件 ザントの撃破 敗北条件 リンクの敗走、または味方本拠地の陥落 ミッション 敵隊長を撃破して敵総大将を誘い出せ!タートナック×3の撃破 敵総大将を撃破せよ! 宝 平原南の砦にハートのかけら 平原東の砦にハートの器 スタルチュラ 1匹目: 2匹目:大橋の砦奥 その他 開始しばらく後、ハイラル隊長が負傷して撤退開始
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<前2-5へ|次3-2へ> 魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」3-1 63 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/08(火) 18 45 11.38 ID I63MLpWkP ――冬の王宮 冬寂王「こ、こんなことになるとは」ぐったり 執事「若、大丈夫でございますか?」 冬寂王「強い氷酒をくれ。――いや、酒は自殺行為だな。 茶をくれ。うんと濃くしたヤツだ」 執事「ははっ」 将官「王よ、次の一団が控えの間に」 冬寂王「うう、判った。五分だけ、五分だけ休憩をくれ」 執事「若、お茶でございます」 冬寂王「とんでもないことになってしまった」 執事「さようですなぁ。これはまったく」 ごちゃらぁ 冬寂王「早まった決断だったのだろうか」 執事「いえいえ、決断自体は決して」 冬寂王「しかしこの惨状では……」 執事「はぁ、いかんともしがたいですな」 71 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/08(火) 18 53 04.67 ID I63MLpWkP 冬寂王「まさか、あの協定でここまで書類や陳情、 嘆願に取引が増えるとは」 執事「予想外でしたな」 冬寂王「そもそも税などと云うのは、 春と秋の2回にわけて、地主が城の倉庫へ運んできて 終わりだったではないか」 執事「さようで」 冬寂王「内政など、堤が切れたら賦役の発布し、 軍を養い食わせる程度であったのに、 ここまで仕事が増えるのか!?」 執事「南氷海の西側を通るルートと、港の使用権。 それに商人から上がる税収に、移民の申請……。 王一人で捌くのは無理がありますな」 冬寂王「そうだ。我が国の文官はどうした? 税務官も居ただろうに」 執事「あまりの激務に一週間で倒れましたな。 そもそも税務官など親子二人でやっていた仕事です。 これは我が国も、中央の大国のように 専用の役人を雇用しなければなりませんかなぁ」 将官「あのー。王? そろそろ次の商人を通して よろしいでしょうか?」 冬寂王「ええい、通せ!」 73 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/08(火) 18 58 49.17 ID I63MLpWkP 商人子弟「お初にお目にかかります、王よ!!」 ごちゃらぁ 冬寂王「おお、良く来たな、若き商人殿よ」 商人子弟「はぁ」 執事「こっちか?」 将官「その山は、探しました。こっちでは?」 冬寂王「それともこれか? 違うではないか!」 商人子弟「何を探しておられるのですか?」 冬寂王「ああ、すまんな。立て込んでいて。 商人殿はニシンの交易であったか? 商人殿があらかじめ出しておいた書状が届いていたはずなのだが 確かここらに置いたと……それから今月の税の とりまとめも。すまぬ、取り紛れてしまって」 商人子弟「ああ、それなら」 すたすたすた ひょい。 商人子弟「これですね。紹介状です。……税のとりまとめは」 ひょい 「おそらく、この帳簿でしょう」 ひょい 「嘆願書はこれ。今月分は、 紐でまとめてあるようですね。几帳面だけど乱暴だなぁ」 78 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/08(火) 19 06 17.82 ID I63MLpWkP 冬寂王「おお! 助かった。時間の節約になった」 執事「いやはや、毎日が戦争ですな」 将官「しかも乱戦気味です。消耗戦かも」 冬寂王「して、商人殿。ニシンであったかな?」 商人子弟「違います。僕は商人の家の三男坊でして ニシンを含む交易は次男の兄さんが、 商会と金貸しは長男の兄さんが継いだせいで、 仕事がないんですよ」 冬寂王「ふむふむ。それは大変だな。して、我が宮殿に どのような用件で参ったのだ?」 商人子弟「この紹介状を……」 「育てるのには飽きた。 あとは浴びるほど仕事を与えて 現場でこき使ってやってくれ。 ――紅」 冬寂王「……」 商人子弟「この宮殿で小さな船でも貸してくれるなら 僕も商売やら情報集めやらでお役に立てると思うんですよ。 一応商人の家の子ですからね」 ほやん 冬寂王「ふむ。いや、良いところにきた。あははは」 がしっ 執事「この国は、有望な若者を歓迎しますぞ」 がしっ 82 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/08(火) 19 13 27.57 ID I63MLpWkP ――開門都市、大通りの縁日 ~♪ ~~♪ 勇者「へぇ、随分賑やかだな」 東の砦将「ああ、思いつきの突貫企画にしちゃ、良い線行ってるな」 勇者「良い匂いだ」 東の砦将「こいつぁ、焼き豚だな? おい懐かしいな! おい、黒騎士。一切れ買おうぜ」 勇者「おう、そうしよう、そうしよう!」 東の砦将「冷たいエールもなっ」 人間商人「らっしゃい!」 勇者「その良く味の染みてそうなところを4切れくれ!」 人間商人「ほいよ! 金貨2枚で良いよ!」 勇者「そんなに安くていいのかい?」 人間商人「この祭りの販売物の仕入れは、 半額は都市の委員会さんがもってくれるんだとさ。 それで今日は大盤振る舞いって訳だ!」 勇者「そうだったのか~。うっわぁ、良い匂いだなぁ!」 人間商人「そりゃそうだ。この焼き豚は、砂丘の国の 秘伝のスパイスで味付けしてあるんだから。 兄ちゃん、良い買い物をしたよ!」 90 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/08(火) 19 22 34.47 ID I63MLpWkP 東の砦将「エールをくれ、ジョッキで二杯だ!」 魔族商人「こりゃぁ、東の大将じゃねぇですか」 東の砦将「ああ、すまねぇな。邪魔をして」 魔族商人「いやいや、とんでもねぇ。二杯ですね? きゅっと冷えた所を出しますから、待っててくだせえよ」 東の砦将「たのんだぜ。……どうだい? 案配は」 魔族商人「盛況ですねぇ。打ち壊し団も、今日ばっかりは 出ねぇと思いますよ。こんなに楽しい祭りなんだもの」 東の砦将「だといいがなぁ」 魔族商人「なんせ、戦いがないのが一番ですや。 もうね、戦争はまっぴらごめんですよ。焼け出されるのも おわれるのも、そりゃぁ辛いもんでがしょう?」 東の砦将「ああ、誓ってそんなことには 成らないようにするととっつぁんに約束するよ」 魔族商人「はははは! 人間の約束かぁ……。 でも、将軍様のだもんな! この都市ならそれも ありかもしれないなぁ。ほら、二杯だよ! 冷たいよ!」 東の砦将「おお、酒手はここに置くぜっ」 93 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/08(火) 19 26 36.58 ID I63MLpWkP ~♪ ~~♪ 勇者「おー。大将、買ってきたぜ?」 東の砦将「こっちもエール仕入れてきたぞ」 勇者「食おう、食おう」 東の砦将「よしきた。くっはぁ! んめぇなぁ!」 勇者「この火傷しそうな所を噛みちぎって、じゅわーってのがな!」 東の砦将「そいつを、この冷たいエールで流し込むと! 最高だな、おい。やっぱ食い物ってのはこうじゃなきゃ!」 ~♪ ~~♪ 火竜公女「ここにおったかや」 魔族娘「あ、あの……ここ、こ、こんばんわっ」 勇者「あ?」 東の砦将「出たよ」 火竜公女「出た、とはなんですか。 視察も公務だと再三言っておいたではないですか。 それをお二人でこっそりと」 勇者「べ、べつにこっそりって訳じゃないし」 東の砦将「なぁ? 部下にだって云ってきたし」 勇者「俺……部下居ない……」 98 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/08(火) 19 32 23.87 ID I63MLpWkP 魔族娘「ご、ご、ご……あぅあぅ」 火竜公女「妾を振り切って出掛けるのがすでに やましさの証です、黒騎士殿っ!」 勇者「は、はいぃ?」 火竜公女「妾は黒騎士殿の妻なのです。 なんて連れない態度なのですか? 火竜の一族でも涙が大河となってしまいましょう」 勇者「妻じゃないです」 火竜公女「そのような手練手管を用いずとも 妾の心も身体も、我が君の物」 勇者「俺のじゃないしっ。何の関係もしてませんしっ」 魔族娘「ご、ご、ご。ごめんなさいっ」 勇者「いや、魔族娘は悪くないから」 魔族娘「いえ、その……黒騎士様が、出掛けたの…… その……云ってしまった……ので、その ご、ごめんなさい」 勇者「まぁ、どっちにしろ、すぐばれたよ。うん」 がくり 104 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/08(火) 19 39 47.33 ID I63MLpWkP ~♪ ~~♪ 東の砦将「それにしても、着飾ってるじゃないか?」 火竜公女「当然です。……だって東の砦将様が、 “縁日って云えば、庶民の娘も着飾ってくる”って 仰ったんじゃありませんか?」 勇者「でも、ちょっと布すくなくね?」 東の砦将「ははは! そうだそうだ、云ったんだっけ。 それになんだなぁ、見ようによっては、東の衣装に 似て無くもないような、奇天烈なような……」 火竜公女「急いでしらべさせたのですよ。 仕立てさせるのに手間がかかりましたが」 勇者「俺スルー……」 魔族娘「ううう、なんか、みなさんが……その…… み、見てるような……」 東の砦将「おお、魔族の嬢ちゃんも可愛い格好させてもらって」 火竜公女「この娘に着替えさせるのに手間取ったのですわ。 まったくとんだ愚図ですこと」 魔族娘「す、す、すみません……その、ごめんなさい」 106 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/08(火) 19 45 50.35 ID I63MLpWkP 火竜公女「いいえ。良いんですっ」 魔族娘 びくっ 火竜公女「たかが下女とは云っても我が君に仕える以上 最低限この程度、と云うたしなみと 美麗さが必要なのです。 だいたい、魔族の未婚の女性が 肉体を誇示しなくてどうしますっ!」 魔族娘「それは竜族のことであって……ごにょごにょ……」 火竜公女「魔族の常識ですっ」 魔族娘「ひゃ、ひゃ……ひゃいっ!」 勇者「おー。焼き馬鈴薯だよ、こんなとこまで」 東の砦将「あれはこのあたりの食い物だぞ」 勇者「そういえば魔界原産だったっけ。食うか?」 東の砦将「食おう、食おう! 美味いぞ!」 火竜公女「我が君?」 勇者「美味いな、バターが最高だな!」 東の砦将「だろう? このまろやかな岩塩がな」 火竜公女「わ が き み っ!!」 勇者「はいっ!?」 109 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/08(火) 19 53 09.65 ID I63MLpWkP 火竜公女「いかがです?」 くるんっ 勇者「いかがって? 良い縁日だな」 火竜公女「いかがでしょう?」 ふわり、くるんっ 魔族娘「ご、ご、ごめんなさい、黒騎士様」 勇者「美味いぞ、馬鈴薯食うか?」 火竜公女「い、い、いかがですか!?」 くるんっ 勇者「えーと」 東の砦将(小声)「おい、その、あんだろ、もうちょっとこう」 勇者(小声)「へ?」 東の砦将(小声)「服褒めるとかさ」 火竜公女 ゴゴゴゴゴ 勇者「あー、うん! よく似合ってるぞっ。 公女はスタイルが良いからどんな服でも似合うけれど、 今日のは異国情緒が合って素敵だな! ……その、ちょっと露出が多いような 気がしないでもないが、祭りだしな!」 東の砦将「あ、馬鹿。それは褒めすぎだ、知らんからなっ」 火竜公女「そ、そ、そうですかっ!? 我が君っ! 妾はっ。妾は三国一の果報者でございます!」 123 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/08(火) 20 04 29.19 ID I63MLpWkP ――冬越しの村、魔王の屋敷、執務室 魔王「ふむ……」 メイド長「今月に入って、もう2度ですから」 魔王「間隔も短くなってきているな」 メイド長「ええ、限界かと……」 魔王「あと、どれくらい余裕がある?」 メイド長「早ければ、早いに越したことはありませんが。 そうですね……一週間程度なら」 魔王「よかろう。一週間後だ」 メイド長「……心中、お察しいたします」 魔王「いや、なに。二年近くだ。良くもったものさ。 いずれこの日が来るとは判っていた」 メイド長「はいっ」 魔王「冥府宮に我が寝台を運ばせておけ」 メイド長「承りました」 魔王「人間界の仕事の後始末を急がねばな」 メイド長「はい」 魔王「そのような顔をするな」 メイド長「……」 魔王「すぐに戻れる。すぐにまた会えるさ」 128 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/08(火) 20 12 48.73 ID I63MLpWkP ――鉄の国、郊外の丘の上 しゅいんっ! 魔王「ふぅ、こちらはまだ空気が湿っているな」 メイド姉「頭の中がくわんくわんします……」 勇者「大丈夫か」 メイド姉「は、はい……」 魔王「無理はせず、大きく息を吸え」 勇者「考えてみたら転移呪文は初体験だったな」 メイド姉「はい。なんだか、目眩みたいで……。 ふぅ、もう大丈夫です」 魔王「転移酔いだな、仕方がない」 勇者「ゆっくり歩けば、回復するだろう」 ざっ、ざくっ、ざくっ 魔王「街までは、20分と云うところか」 勇者「そんなもんかな」 メイド姉「あれが鉄の国の都ですか! 大きいですねぇ!」 魔王「うむ、煙がたなびいているだろう? 数多くの工房が並んでおるのだ」 132 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/08(火) 20 18 25.84 ID I63MLpWkP 勇者「それにしても、今日は何の仕事なんだ?」 魔王「ああ、頼んでおいた機械の試作が出来たそうでな」 勇者「見に来たのか? メイド姉も?」 魔王「最近、わたしの仕事を色々教えておるのだ。 貴族よりも商人よりも筋が良いぞ」 メイド姉「そんなこと、ないです……」 魔王「ほれ、市街地に入るぞ」 門衛「止まれ!」 門衛「どこからやってきた、商人か?」 魔王「冬の国の学者だ。これが身分証明」 門衛「冬の国の国王印。そうでしたか! どうぞっ!」 魔王「身分も、役に立つものだな」 勇者「面倒がないのはありがたいよ、ほんと」 メイド姉「すごいですねぇ! 家がみんな石で出来てますよ?」 魔王「こらこら、上ばかり見ては危ないぞ」 135 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/08(火) 20 23 40.86 ID I63MLpWkP 勇者「で、どこへ行くんだ?」 メイド姉「どこでしょう?」 魔王「うむ、判らん」 勇者「なんだよ、頼りないな。手紙を見せろよ」 魔王「これだ」 ぺらっ 勇者「ああ、これは川沿いの職人街だな」 メイド姉「お詳しいのですね!」 勇者「勇者は風来坊だからな、色んな街でもめ事を 解決する旅だから地理だけは詳しくなるんだよ」 メイド姉「すごい特技ですよ」 魔王「わたしの物だからな。ふふんっ」 勇者「はいはい」 魔王「ほほう、あれは鉄か? こちらの工房では、銀細工か」 勇者「興味津々だな」 魔王「現場を見るのは初めてだからな」 勇者「今日は、何の工房にいくんだ? 武器か、農具か?」 魔王「工房自体は、銅の鋳造を行っている工房だ。 だが武器でも農具でもないな」 141 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/08(火) 20 28 42.95 ID I63MLpWkP 魔王「勇者とは以前、教育について話したことがあったな」 勇者「ああ、そうだな」 メイド姉「……」 魔王「わたしは、教育はこの世界においてもっともっと 大きな力を持っているのじゃないかと思う」 勇者「……ふむ」 魔王「本当の世界の広さは誰にも判らないほど広いのだ。 それを人間は……魂ある存在は、己の常識や、知識に 当てはめて知ったつもりになる」 勇者「それは、覚えがあるなぁ。 自分のやり方しかないと思い込んだり、 自分が正しいと思い込んだり」 メイド姉「はい……」 魔王「それらの闇を払うには、教育が必要だ。 しかも、教育がより重要である理由は “教育が重要であるという事実”も教育がないと 理解されないという点にある」 勇者「ん? ちょっと難しいぞ」 144 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/08(火) 20 39 19.79 ID I63MLpWkP メイド姉「それは、そうなんです」 勇者「判るのか? メイド姉は?」 メイド姉「はい。そのぅ…… たとえば、農奴は、教育が、つまり知識が少なくて “もっと良い世界がある”事もよく判ってないんです。 だからずっと貧しいんです」 勇者「でも、地主だのなんだのは良い生活してるだろ? そういうの見てるじゃないか」 メイド姉「でも、“そっちに行く方法”が判らないんです。 ううん、正確には“そっちに行けるかもしれない”って 事すらも判らないんです」 勇者「……」 魔王「……」 メイド姉「それは、とても不幸なことです。 だからわたしには当主様の話はよく判ります」 勇者「そっか……」 154 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/08(火) 20 49 05.09 ID I63MLpWkP 魔王「さて、そんな風に重要な教育だが、 重大な欠点というか、弱点がある。判るか?」 勇者「なんだろう? なぁ?」 メイド姉「判りませんね……」 魔王「それは、速度が遅いと云うことだ。 一人の人間が持つ知識を他の一人に伝えるのには 莫大な時間がかかる。 しかも、同時に多数の人間に伝えるのには限界がある。 もし仮に、一人の教師が自分と同等の生徒一人を 育てるのに一生の時間がかかるならば、 知識を持っている人間は増えないことになるではないか」 勇者「あー。まぁ、云われてみればそうだなぁ」 メイド姉「でも、知識は尊い物ですからそれも仕方ないの ではないでしょうか? 当主様を学べば学ぶほど、 追いつける気がしませんし……」 魔王「それもまた、勝手に思い込んだ限界だ」 勇者「そう、なのか?」 159 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/08(火) 20 53 49.16 ID I63MLpWkP ――鉄の国、職人街、大型工房 がちゃり 職人長「やぁ。これは学士様! 長旅、お疲れになったでしょう!」 魔王「世話になっているな、職人長」 職人長「いやなんの! この年齢になって まだこんなに面白い仕事をくださるなんて、 みなの意気も上がっておりますよ」 メイド姉「広い工房ですね!」 職人長「ああ、あまり歩き回ると危険ですよ、お嬢さん」 プシュー!! 職人長「熱い蒸気なども使っていますからね!」 メイド姉「はいっ」 職人長「さて、お疲れでしょう。お茶でも入れますので、 裏の屋敷の方にでも……」 魔王「いや、結構。何よりも、まずは試作品を見たい」 職人長「あははは。冬の国で話したときと その性急さは変わりませんなぁ! さぁ、お連れ様も こちらへどうぞ。専用の倉庫を設けたのですよ」 162 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/08(火) 20 57 58.44 ID I63MLpWkP 魔王「これか!」 勇者「でかいなぁ!」 メイド姉「これは、なんですか……? 脱穀機に似ているような、もっと大きなような……」 職人長「外側は仮組ですから、 どうしても大きくなってしまいました。 もっとも本体は小さい物です。巨大に見えるのは、 ある種の棚というか、倉庫ですね」 勇者「倉庫?」 職人長「いらっしゃい」 カツン、カツン、カツン メイド姉「引き出しと、棚がすごい数ですね」 職人長「これが入っているんですよ」 コロンッ 勇者「これは、印章?」 メイド姉「ハンコですか?」 職人長「ええ、『活字』と呼んでいます」 魔王「これが、私たちの新しい武器さ」 職人長「活版印刷機と名付けました」 169 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/08(火) 21 03 57.87 ID I63MLpWkP ――冬越しの村、魔王の屋敷、深夜の廊下 女騎士「……」じぃぃっ 魔王「……」じぃっ 女騎士「な、なんで、こ、こんなところにっ」 魔王「それはこちらの台詞だ」 女騎士「いや、その洗面所はどこかなぁと」 魔王「洗面所は廊下の反対だ」 女騎士「大体、魔王は何でこんな所に?」 魔王「そっ、それはだな」 女騎士「それは?」 魔王「ええい、なんだ! 女騎士のその白いふりふりの寝間着は! これは、き、き、絹ではないかっ!!??」 女騎士「いいではないか、人が何を着ようとっ!」 魔王「良くはないぞっ。そんなもの」 女騎士「それを言うなら、魔王は何で枕を抱えているんだっ」 177 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/08(火) 21 10 37.74 ID I63MLpWkP 魔王「……それはその」じりじり 女騎士「そこ、ドアににじり寄るんじゃない」 魔王「べつにそんなことはしていない」 女騎士「勇者の部屋にこんな夜更けに行くつもりなのか?」 魔王「か、かまわないではないか。夜の茶会だ」 女騎士「それならこっちだって夜のお茶会決行だっ」 魔王「どこの世界に絹の寝間着で男の部屋に 尋ねるお茶会があるのだ! この馬鹿!」 女騎士「枕持参でお茶会と言い切る馬鹿よりは まだましな馬鹿だ!」 魔王「うむ。あー、こほん。女騎士」 女騎士「なに?」 魔王「わたしは女騎士を人間界で ほとんど唯一の友達だと思っている……」 女騎士「……うん、そうだね。魔王」 魔王「だから見逃してくれ」 女騎士「それはダメ」 186 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/08(火) 21 15 46.92 ID I63MLpWkP 魔王「後生だ。事情があるのだ」 女騎士「こっちだって事情があるの」 魔王「どんな?」 女騎士「これだっ」 ばっ! 魔王「なになに? 『我が君への永久の忠誠を誓って』? これは女物のハンカチではないか……。 え? ええっ!?」 女騎士「そうだ、あんの火竜公女だ。 こっちがなんやかやの仕事で忙殺されていると思って、 こんな粉かけるとは喧嘩を売るにもほどがある」ゴゴゴ 魔王「確かに……」ゴゴゴ 女騎士「そういう訳なので、今宵の私は退くに退けん。 愛剣・神性惨殺も血に飢えている」 魔王「どんな事情だ! こちらだって、残り数日のっ」 女騎士「?」 魔王「いや、なんでもない。とにかく、こちらも退けないっ」 メイド長「それでは私めが」 魔王・女騎士「え?」 193 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/08(火) 21 24 27.59 ID I63MLpWkP 魔王・女騎士「えぇっ!?」 メイド長「夜伽でしょう? そんなことでもめるなんてはしたないですわ。 不肖、私がお務めさせて頂きます。 それで角が立たないでしょう?」 魔王「なんて事を云うんだメイド長!?」 女騎士「まったくだ、なんて横暴なんだ! 恥を知れっ!」 メイド長「だいたい未経験者の相手なのですから そんなにぴりぴりした気持ちで居てどうします? 成功もおぼつきませんよ。 こんな時こそ包容力と寛容の精神が必要なのです。 閨房で殿方を甘えさせられなければ一人前とはいえますまい」 魔王「それは、そうかもしれんが……」 女騎士「たしかに婦女としてはずべきであった」 メイド長「ではちゃっちゃと済ませてきますので、 そこで待っててくださいますね」 魔王「それとこれとを一緒にするなぁ!」 女騎士「それは騎士として諾とは云えないぞ!!」 メイド長「では、廊下でなんか騒がないで お二人で。いえ、三人で仲良くしてください」 にこりっ がちゃ! ポポイッ! 199 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/08(火) 21 29 42.50 ID I63MLpWkP ――冬越しの村、魔王の屋敷、勇者の部屋 ごろごろごろ、ズテン! 魔王・女騎士「ふぎゃっ!!」 勇者「……なにやってるんだ? お前ら」 女騎士「いや、その。こ、これはな! 事情があるんだ」 魔王「うむ、話せば長い事ながら深くやむにやまれぬ事情が あるのだ知っての通り世界情勢は混迷を極め我らが立場も また深い迷夢の中と言って良いというこの時期にだな」 女騎士「他人の錯乱を目にするとちょっと落ち着くな」 魔王「つまり、今後の展望と展開を踏まえた思索の果てに 光明を見いだすべき勇者と我らが腹を割って話すことこ そが今もっとも求められていることなのではないか? たしかにぷにぷにと云われるリスクはあるのだが、 我らはそろそろ次のステップを踏むべきなのではないかと」 勇者「落ち着け」 スコン! 魔王「ぐっ!」 203 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/08(火) 21 34 04.82 ID I63MLpWkP 勇者「で、要約するとどういう事なんだ」 魔王「……」ちらっ 女騎士「……」ちらっ 勇者「アイコンタクトとってんじゃねぇよ」 魔王「ではタイムだ」 勇者「は?」 魔王「あちらで作戦会議をするから、聞くなよ?」 勇者「はぁぁー?」 こそこそっ 女騎士「作戦ってどんな作戦があるんだ」 魔王「これでも私は話し合いの魔王なのだ。 交渉は我が領域。話し合いで決着をつけよう」 女騎士「どんな?」 魔王「上は私で下が女騎士でどうだろう」 女騎士「どこの変態なのだっ。魔王はっ!?」 勇者「ひまだなぁ」 209 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/08(火) 21 38 10.54 ID I63MLpWkP 魔王「変態とは何だ? ベッドの上下だ」 女騎士「そ、そうか。済まない、誤解した」 魔王「それでいいか?」 女騎士「ちょっとまって、勇者は?」 魔王「ベッドの上に決まってる」 女騎士「私だけ下じゃないか、どこのいじめだ!」 魔王「だめか、ではタイムシェアリングはどうだ?」 女騎士「たいむしえあ? なにそれ?」 魔王「時間によって案件を共有するのだ」 女騎士「マシそうな提案ね」 魔王「生産性向上のための基礎知識だ」 女騎士「で、具体的には?」 魔王「勇者のベッドを陽のある間は女騎士が、 陽が落ちてからは私が使う」 女騎士「魔王だけ勇者つきではないかっ!?」 勇者「なんか小腹へってきたし」 216 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/08(火) 21 46 44.50 ID I63MLpWkP ――冬越しの村、魔王の屋敷、勇者の部屋 勇者「なんだこの状況は。何が起きてるんだ!?」 魔王「交渉とは妥協の婉曲な表現でもある。 その現実の哀しい写し絵だ」 女騎士「私だって不本意だ。しかし、しかたない。 “パンが一つ無いときは半分で感謝しなければならない” そうお祖母ちゃんも云っていた」 勇者「すげぇ粗末な扱いだよなぁ、俺」 魔王「何を言うんだ! 両手に女を抱えて!! まさか、勇者。……ふ、ふ、不満なのか」 女騎士「火竜のなんとかの方が良いって 云うんじゃないでしょうね!?」 勇者「いや、そうじゃなくてっ」 魔王「ぷ、ぷにぷにだからダメなのか!? 駄肉だからか!? 勇者は私の所有契約なのだぞ」むぎゅっむぎゅっ 女騎士「胸がないとだめなのかっ!? そんな腐った肉がいいのか? 乙女の最上級は清らかさだぞっ。 神に捧げられた純潔の方がいいに決まってるっ」すりすり 勇者「ううう、なんでだよう。なんでこうなんだよ」 230 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/08(火) 21 52 09.48 ID I63MLpWkP 魔王「むぅ。このままではメイド長のいうとおりだ」 女騎士「……腹立たしいけど、そうだな」 魔王「一次休戦だ」 女騎士「心得た」 勇者「いつも俺の頭越しに会談がまとまるよ」 魔王「頭越しではないぞ? こうやって耳元で横になっている」 女騎士「うむ、肩に頭をもたせかけているだけだ」 勇者「……」びくびく 魔王「勇者は緊張しているのか?」 女騎士「自分の寝床なんだからそんなことはないだろう」 勇者(緊張してるよっ! しないわけないだろがっ!?) 魔王「まあ落ち着け」 女騎士「うん、戦場では冷静が生死を分けるぞ」 勇者(絶体絶命だ!) 魔王「暖かいなぁ! もふもふだ!」 女騎士「うむ、意外なほどに寝心地が良いな」 241 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/08(火) 22 02 03.90 ID I63MLpWkP 勇者「……すー……すー」 魔王「寝たのか? 勇者」 女騎士「かもしれないな。疲れているのだろうし」 勇者(寝れるかっ。この状況下で寝れる童貞が居たら 俺が全部雷撃魔法で電気椅子にしてやるわっ!!) 魔王「勇者の髪は、もふもふだ」 女騎士「うん、大きな犬みたいだね」 魔王「この髪を触るのが好きなのだ。 勇者の髪を整えているのはわたしなのだぞ?」 女騎士「わたしの方が付き合いは長いから。そんなの知ってる」 勇者「……すー……すー」 勇者(だ、だめだ。寝たふりをするしかない。 精神を鎮めるんだ!! 高まれ俺の魂!) 魔王「……」 女騎士「……」なで、なで 魔王「なぁ、女騎士」 女騎士「なに?」 249 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/08(火) 22 08 26.33 ID I63MLpWkP 魔王「わたしは、来週にでも魔界へ帰る」 女騎士「へ?」 勇者(え?) 魔王「いや、なに。魔王の免許更新のようなものでな」 女騎士「免許? 免状みたいなもの?」 魔王「そうだ」 女騎士「そっか……。すぐ帰ってくるの?」 魔王「いや、どうかな。早くて数ヶ月はかかると思う」 女騎士「何かあるの? 魔王……躊躇ってるよね?」 魔王「いや迷いはない。仕方ないことだ。 魔王というのは、何というか……。 魔王以外には上手く説明できないこともあってな。 代々の魔王の墓があるんだが、そこへ詣らないといけない」 女騎士「……」 魔王「それに、魔界にはたくさんの氏族があるが、 それらの多くは人間界侵攻に賛成なのだ。 今戦争が小康状態なのは、魔王であるわたしが 勇者と相打ちになり怪我の療養をしているという話に なっている事が大きい。 そろそろ姿を見せて、魔族の心をまとめなければ、 かえって暴走した一部の氏族が勝手に戦争を再開する かもしれない」 251 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/08(火) 22 21 00.90 ID I63MLpWkP 女騎士「でも、それなら……」 勇者(……) 魔王「ん?」 女騎士「魔王は、魔界で戦争賛成派のまっただ中に 取り残されることになるんじゃないのか? それはすごく危険なように聞こえる」 勇者(……) 魔王「わたしの専門は経済、すなわち交渉だ。 そこまで酷いことにはならないさ。だいたい金も 食料も無しで戦争を続けられる生き物なんて居ないよ」 女騎士「しかし誰か連れてった方が良いだろう? その……。勇者とか。なんならわたしが行こうかっ」 魔王「いや……」なで…… 女騎士「……」 魔王「いいんだ。魔王の墓は、冥府殿というのだが、 そこにはどうせわたし以外は誰も入れないのだ。 ついてきて貰うには及ばない。一人で行く」 253 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/08(火) 22 23 31.94 ID I63MLpWkP 女騎士「そう……なのか……」 魔王「うん、だから、ちょっとだけ勇者の体温が欲しくてな」 勇者(……) 魔王「駄々をこねてしまった。許されよ」 女騎士「いや……」 魔王「もちろんメイド長はつれてゆく。身を守る程度なら 二人でどうとでもなる」 女騎士「そうか」 ほっ 魔王「こちらの世界のことは、書類を残してゆくし、 馬鈴薯や農業については女騎士も知っての通りだ」 女騎士「うん、修道会に任せて欲しい」 魔王「『同盟』に頼んだニシンも届こう。 そろそろ風車の代金や新型羅針盤の契約料も入ってくるはずだ。 これらの利益管理も『同盟』に依頼してある。 必要なときは相談してくれ」 女騎士「承知した」 魔王「細かいことはみな、メイド姉に教えてある。 そして……。 勇者のことを頼む」 女騎士「わかった。――その命、この剣に賭けて守ろう」 366 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 15 37 01.74 ID CkBATQ0gP ――冬越し村、魔王の屋敷、執務室 魔王「さて」 メイド姉「はい」 メイド妹「はーい」 魔王「大体飲み込めたか?」 メイド姉「判りました」 メイド妹「よくわかんない」 メイド長「妹は、お姉さんの云うことをちゃんと聞いて 毎日のやることをこなしていくんですよ?」 メイド妹「はーい!」 メイド長「語尾を不必要に伸ばさない」 メイド妹「は、はいっ」 魔王「なに、気負うことはない」 勇者「やはり長引きそうか?」 魔王「メイド長の手の者に調べて貰っているが、 氏族の長の中には頑固者も居るからな。 人間世界が宝の山に見えている者も居るだろうし。 何を考えているやら……。 そんなものは、隣の芝生に過ぎないのだが」 370 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 15 42 05.60 ID CkBATQ0gP 勇者「やっぱり俺も行くべきじゃないか?」 魔王「一人で行く」 勇者「……」 魔王「そのような顔をするな。 どちらにせよこれは魔王の仕事なんだ。 魔王でなければ出来ないこともする。 約束する、無理はしない」 メイド長「わたしがまおー様のことは守りますわ」 魔王「うん、メイド長が居るからな」 勇者「……」 魔王「それに、この世界のことだって心配だ。 南部諸王国は安定してきたし、農業改革も順調だとは云えるが 聞いた話だと、白夜王国は政情不安定になってきていると 云うじゃないか」 勇者「らしいな」 魔王「わたしがこの世で一番信頼しているのは、勇者だ。 何せわたしの持ち主だからな」 372 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 15 47 53.84 ID CkBATQ0gP 魔王「だから、この場所に勇者を残していくのは、 心強いことなんだ。 前回は勇者が魔界に行って、わたしは残った。 農業改革や技術指導は、わたしにしか出来なかったからだ。 だが、今回は違う。 開門都市の件で勇者がもうただの戦士じゃないことは判っている。 もう一人のわたしだ。 だから、ここを任せる」 勇者「……判った」 魔王「それから、メイド姉」 メイド姉「はい」 魔王「これを預けよう」 メイド姉「指輪、ですか?」 魔王「ああ、知り合いの地妖精に作らせたんだ。 大したことはないが、姿変えの幻術が仕込んである。 幻術だから声や仕草はどうにもならないが、 わたしの姿になれるぞ」 メイド姉「どういうことでしょう?」 魔王「商人からの代金の受け取りや、尋ねてきた客人 と 会わなければならないときもあろう? 大抵は勇者がうまくやってくれるだろうが、 どうしても必要なときは、この指輪でわたしの替え玉を やってくれ」 373 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 15 53 26.57 ID CkBATQ0gP メイド姉「判りました」 メイド妹「当主のおねーちゃん!」 魔王「ん、なんだ?」 メイド妹「おみやげ。ね♪」にぱ メイド長「これ!」 魔王「あははは。うん、何か見繕ってこよう」 勇者「……」 メイド姉「無事のお帰りを祈っております」 メイド妹「お祈りしてるー!」 魔王「うむ。早ければ三ヶ月、長くても半年といったところか」 メイド長「おなかを出して寝ちゃいけませんよ?」 メイド姉「いってらっしゃいませ」 メイド妹「いってらっしゃーい♪」 しゅいんっ! 376 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 15 57 38.85 ID CkBATQ0gP ――開門都市、街外れ ひゅわんっ! 魔王「やはり勇者の転移魔法は便利だな」 勇者「運び屋は任せてくれよ」 メイド長「まおー様のよりずっと転移酔いが少ないですね」 魔王「うん、久しぶりの魔界だ!」 メイド長「そうですね、緑色の太陽。懐かしいですわ」 魔王「ここは――うん。大体判った、都市の南の外れだな」 勇者「そうだ、丘を下れば開門都市の南門に出る」 魔王「よし、ではここでお別れだ」 勇者「いや、街までは送るよ」 魔王「いいや、ダメだ。勇者は街に近づくな」 勇者「へ?」 魔王「と、とにかく禁止だ。 ……そんな、そのぅ。火竜の小娘に会いに行かなくても……」 勇者「?」 魔王「ええい。勇者!」 勇者「おう?」 魔王「もふもふさせろ!」 わしゃわしゃ! 378 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 16 03 27.05 ID CkBATQ0gP 勇者「なっ、なんだよいきなり!」 メイド長「あらあら、まぁまぁ」 魔王「なぁに。ちょっとした燃料補給だ」 勇者「――大丈夫なのか?」 魔王「勇者は心配性だな。男が廃るぞ」 勇者「とは云ってもなぁ」 魔王「大丈夫だ。今エネルギーを貰ったからな。 先代たちが束になってかかってきたところで 負ける気はしない」 勇者「……」 魔王「それに、やっとここまで来た。 わたしにも開門都市の明るい空気が感じられるぞ。 人間と魔族が一緒に暮らしている街があるじゃないか。 もう、丘の頂上は見え始めているんだ」 勇者「ああ、そうだな」 魔王「だから行ってくるぞ――わたしの勇者」 勇者「おう、いってきやがれ。――俺の魔王」 魔王・勇者「「また会おう、すぐにでも」」 383 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 16 07 45.08 ID CkBATQ0gP ――冬越し村、実りの秋 小さな村人「ほーうぃ! ほーうぃ!」 中年の村人「おんや、こんにちはぁ」 羊毛職人「こんにちはぁ!」 小さな村人「きょうは一杯だぁね、どうするんだい?」 羊毛職人「ああ、もう秋だからねぇ。チーズの仕込みをしないと」 小さな村人「ああ、そうかぁ。今年はどんな案配だい?」 中年の村人「アーモンド入りのは作るだか?」 羊毛職人「良いよぉ、ミルクの出も良いし。 もちろんアーモンド入りのも作るだぁよ。 クローバーの葉をたっぷり食べてるせいかなぁ。 今年のミルクは、すごく甘いだよ」 小さな村人「そりゃぁ、良いことを聞いただよ」 中年の村人「小麦か馬鈴薯ととりかえてくれるだか?」 羊毛職人「もちろんだよ。銀貨でもかまわないよ?」 小さな村人「そういや、銀貨も使うようになっだぁね」 中年の村人「そうだなや。うちは埋めて貯めてるだよ」 羊毛職人「あんれまぁ。そうだね、用心せんとね」 386 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 16 11 55.63 ID CkBATQ0gP 小さな村人「こっちは馬鈴薯の畑に、灰と魚カスを撒くだよ」 中年の村人「撒くのかい?」 羊毛職人「魚カスってなんだべ?」 小さな村人「教会で教えて貰った、肥料だなや。 大地の恵みが弱らないように撒くと良いらしいだよ」 中年の村人「でも、お金がかかるんがなぁ」 羊毛職人「そうなのかぁ」 小さな村人「まぁ、でも、たいした金額じゃねぇさ。 修道士様が教えてくれた馬鈴薯で作った金だ。 その修道院にお返ししたって罰は当たらないべ」 中年の村人「そりゃ、そうかもしれんなぁ」 小さな村人「それに、撒かないと馬鈴薯は病気に なりやすいっていうべさ。うちんとこは小麦の畑は 減らしたから、馬鈴薯病気になったら困っちまう」 中年の村人「そうか、そうか。おらんとこも撒くかなぁ」 羊毛職人「おらは、自分の腹にニシン詰めてぇな」 小さな村人「あははは! 酒場でバター焼きを詰めるべ」 中年の村人「ああ、そりゃいいだなや!」 羊毛職人「チーズが一杯売れたら考えるだぁよ」 小さな村人「そうすべなぁ!」 387 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 16 17 57.20 ID CkBATQ0gP ――聖王都、貴族院 がやがやがや 軍閥貴族「――開門都市を放棄して――」 富裕貴族「おめおめと――退却――とは」 司教「精霊の――にも――処罰――」 軍閥貴族「さすがは――弱腰の貴族――」 富裕貴族「――妾腹――な」 司教「王国臣民――100万の――」 軍閥貴族「この罰――」 富裕貴族「極刑――磔刑――」 司教「塩――すりこみ――焼きごて――」 がやがやがや 軍閥貴族「判決を――」 富裕貴族「いや、いまこそ――軍事法廷――」 司教「しかるべき――宗教裁判――」 軍閥貴族「敵前逃亡――任務放棄――」 富裕貴族「王国に対する裏切り――利敵行為――」 司教「神聖冒涜――」 ページトップへ <前2-5へ|次3-2へ> <前2-5へ|次3-2へ> 魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」3-1 63 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/08(火) 18 45 11.38 ID I63MLpWkP ――冬の王宮 冬寂王「こ、こんなことになるとは」ぐったり 執事「若、大丈夫でございますか?」 冬寂王「強い氷酒をくれ。――いや、酒は自殺行為だな。 茶をくれ。うんと濃くしたヤツだ」 執事「ははっ」 将官「王よ、次の一団が控えの間に」 冬寂王「うう、判った。五分だけ、五分だけ休憩をくれ」 執事「若、お茶でございます」 冬寂王「とんでもないことになってしまった」 執事「さようですなぁ。これはまったく」 ごちゃらぁ 冬寂王「早まった決断だったのだろうか」 執事「いえいえ、決断自体は決して」 冬寂王「しかしこの惨状では……」 執事「はぁ、いかんともしがたいですな」 71 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/08(火) 18 53 04.67 ID I63MLpWkP 冬寂王「まさか、あの協定でここまで書類や陳情、 嘆願に取引が増えるとは」 執事「予想外でしたな」 冬寂王「そもそも税などと云うのは、 春と秋の2回にわけて、地主が城の倉庫へ運んできて 終わりだったではないか」 執事「さようで」 冬寂王「内政など、堤が切れたら賦役の発布し、 軍を養い食わせる程度であったのに、 ここまで仕事が増えるのか!?」 執事「南氷海の西側を通るルートと、港の使用権。 それに商人から上がる税収に、移民の申請……。 王一人で捌くのは無理がありますな」 冬寂王「そうだ。我が国の文官はどうした? 税務官も居ただろうに」 執事「あまりの激務に一週間で倒れましたな。 そもそも税務官など親子二人でやっていた仕事です。 これは我が国も、中央の大国のように 専用の役人を雇用しなければなりませんかなぁ」 将官「あのー。王? そろそろ次の商人を通して よろしいでしょうか?」 冬寂王「ええい、通せ!」 73 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/08(火) 18 58 49.17 ID I63MLpWkP 商人子弟「お初にお目にかかります、王よ!!」 ごちゃらぁ 冬寂王「おお、良く来たな、若き商人殿よ」 商人子弟「はぁ」 執事「こっちか?」 将官「その山は、探しました。こっちでは?」 冬寂王「それともこれか? 違うではないか!」 商人子弟「何を探しておられるのですか?」 冬寂王「ああ、すまんな。立て込んでいて。 商人殿はニシンの交易であったか? 商人殿があらかじめ出しておいた書状が届いていたはずなのだが 確かここらに置いたと……それから今月の税の とりまとめも。すまぬ、取り紛れてしまって」 商人子弟「ああ、それなら」 すたすたすた ひょい。 商人子弟「これですね。紹介状です。……税のとりまとめは」 ひょい 「おそらく、この帳簿でしょう」 ひょい 「嘆願書はこれ。今月分は、 紐でまとめてあるようですね。几帳面だけど乱暴だなぁ」 78 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/08(火) 19 06 17.82 ID I63MLpWkP 冬寂王「おお! 助かった。時間の節約になった」 執事「いやはや、毎日が戦争ですな」 将官「しかも乱戦気味です。消耗戦かも」 冬寂王「して、商人殿。ニシンであったかな?」 商人子弟「違います。僕は商人の家の三男坊でして ニシンを含む交易は次男の兄さんが、 商会と金貸しは長男の兄さんが継いだせいで、 仕事がないんですよ」 冬寂王「ふむふむ。それは大変だな。して、我が宮殿に どのような用件で参ったのだ?」 商人子弟「この紹介状を……」 「育てるのには飽きた。 あとは浴びるほど仕事を与えて 現場でこき使ってやってくれ。 ――紅」 冬寂王「……」 商人子弟「この宮殿で小さな船でも貸してくれるなら 僕も商売やら情報集めやらでお役に立てると思うんですよ。 一応商人の家の子ですからね」 ほやん 冬寂王「ふむ。いや、良いところにきた。あははは」 がしっ 執事「この国は、有望な若者を歓迎しますぞ」 がしっ 82 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/08(火) 19 13 27.57 ID I63MLpWkP ――開門都市、大通りの縁日 ~♪ ~~♪ 勇者「へぇ、随分賑やかだな」 東の砦将「ああ、思いつきの突貫企画にしちゃ、良い線行ってるな」 勇者「良い匂いだ」 東の砦将「こいつぁ、焼き豚だな? おい懐かしいな! おい、黒騎士。一切れ買おうぜ」 勇者「おう、そうしよう、そうしよう!」 東の砦将「冷たいエールもなっ」 人間商人「らっしゃい!」 勇者「その良く味の染みてそうなところを4切れくれ!」 人間商人「ほいよ! 金貨2枚で良いよ!」 勇者「そんなに安くていいのかい?」 人間商人「この祭りの販売物の仕入れは、 半額は都市の委員会さんがもってくれるんだとさ。 それで今日は大盤振る舞いって訳だ!」 勇者「そうだったのか~。うっわぁ、良い匂いだなぁ!」 人間商人「そりゃそうだ。この焼き豚は、砂丘の国の 秘伝のスパイスで味付けしてあるんだから。 兄ちゃん、良い買い物をしたよ!」 90 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/08(火) 19 22 34.47 ID I63MLpWkP 東の砦将「エールをくれ、ジョッキで二杯だ!」 魔族商人「こりゃぁ、東の大将じゃねぇですか」 東の砦将「ああ、すまねぇな。邪魔をして」 魔族商人「いやいや、とんでもねぇ。二杯ですね? きゅっと冷えた所を出しますから、待っててくだせえよ」 東の砦将「たのんだぜ。……どうだい? 案配は」 魔族商人「盛況ですねぇ。打ち壊し団も、今日ばっかりは 出ねぇと思いますよ。こんなに楽しい祭りなんだもの」 東の砦将「だといいがなぁ」 魔族商人「なんせ、戦いがないのが一番ですや。 もうね、戦争はまっぴらごめんですよ。焼け出されるのも おわれるのも、そりゃぁ辛いもんでがしょう?」 東の砦将「ああ、誓ってそんなことには 成らないようにするととっつぁんに約束するよ」 魔族商人「はははは! 人間の約束かぁ……。 でも、将軍様のだもんな! この都市ならそれも ありかもしれないなぁ。ほら、二杯だよ! 冷たいよ!」 東の砦将「おお、酒手はここに置くぜっ」 93 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/08(火) 19 26 36.58 ID I63MLpWkP ~♪ ~~♪ 勇者「おー。大将、買ってきたぜ?」 東の砦将「こっちもエール仕入れてきたぞ」 勇者「食おう、食おう」 東の砦将「よしきた。くっはぁ! んめぇなぁ!」 勇者「この火傷しそうな所を噛みちぎって、じゅわーってのがな!」 東の砦将「そいつを、この冷たいエールで流し込むと! 最高だな、おい。やっぱ食い物ってのはこうじゃなきゃ!」 ~♪ ~~♪ 火竜公女「ここにおったかや」 魔族娘「あ、あの……ここ、こ、こんばんわっ」 勇者「あ?」 東の砦将「出たよ」 火竜公女「出た、とはなんですか。 視察も公務だと再三言っておいたではないですか。 それをお二人でこっそりと」 勇者「べ、べつにこっそりって訳じゃないし」 東の砦将「なぁ? 部下にだって云ってきたし」 勇者「俺……部下居ない……」 98 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/08(火) 19 32 23.87 ID I63MLpWkP 魔族娘「ご、ご、ご……あぅあぅ」 火竜公女「妾を振り切って出掛けるのがすでに やましさの証です、黒騎士殿っ!」 勇者「は、はいぃ?」 火竜公女「妾は黒騎士殿の妻なのです。 なんて連れない態度なのですか? 火竜の一族でも涙が大河となってしまいましょう」 勇者「妻じゃないです」 火竜公女「そのような手練手管を用いずとも 妾の心も身体も、我が君の物」 勇者「俺のじゃないしっ。何の関係もしてませんしっ」 魔族娘「ご、ご、ご。ごめんなさいっ」 勇者「いや、魔族娘は悪くないから」 魔族娘「いえ、その……黒騎士様が、出掛けたの…… その……云ってしまった……ので、その ご、ごめんなさい」 勇者「まぁ、どっちにしろ、すぐばれたよ。うん」 がくり 104 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/08(火) 19 39 47.33 ID I63MLpWkP ~♪ ~~♪ 東の砦将「それにしても、着飾ってるじゃないか?」 火竜公女「当然です。……だって東の砦将様が、 “縁日って云えば、庶民の娘も着飾ってくる”って 仰ったんじゃありませんか?」 勇者「でも、ちょっと布すくなくね?」 東の砦将「ははは! そうだそうだ、云ったんだっけ。 それになんだなぁ、見ようによっては、東の衣装に 似て無くもないような、奇天烈なような……」 火竜公女「急いでしらべさせたのですよ。 仕立てさせるのに手間がかかりましたが」 勇者「俺スルー……」 魔族娘「ううう、なんか、みなさんが……その…… み、見てるような……」 東の砦将「おお、魔族の嬢ちゃんも可愛い格好させてもらって」 火竜公女「この娘に着替えさせるのに手間取ったのですわ。 まったくとんだ愚図ですこと」 魔族娘「す、す、すみません……その、ごめんなさい」 106 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/08(火) 19 45 50.35 ID I63MLpWkP 火竜公女「いいえ。良いんですっ」 魔族娘 びくっ 火竜公女「たかが下女とは云っても我が君に仕える以上 最低限この程度、と云うたしなみと 美麗さが必要なのです。 だいたい、魔族の未婚の女性が 肉体を誇示しなくてどうしますっ!」 魔族娘「それは竜族のことであって……ごにょごにょ……」 火竜公女「魔族の常識ですっ」 魔族娘「ひゃ、ひゃ……ひゃいっ!」 勇者「おー。焼き馬鈴薯だよ、こんなとこまで」 東の砦将「あれはこのあたりの食い物だぞ」 勇者「そういえば魔界原産だったっけ。食うか?」 東の砦将「食おう、食おう! 美味いぞ!」 火竜公女「我が君?」 勇者「美味いな、バターが最高だな!」 東の砦将「だろう? このまろやかな岩塩がな」 火竜公女「わ が き み っ!!」 勇者「はいっ!?」 109 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/08(火) 19 53 09.65 ID I63MLpWkP 火竜公女「いかがです?」 くるんっ 勇者「いかがって? 良い縁日だな」 火竜公女「いかがでしょう?」 ふわり、くるんっ 魔族娘「ご、ご、ごめんなさい、黒騎士様」 勇者「美味いぞ、馬鈴薯食うか?」 火竜公女「い、い、いかがですか!?」 くるんっ 勇者「えーと」 東の砦将(小声)「おい、その、あんだろ、もうちょっとこう」 勇者(小声)「へ?」 東の砦将(小声)「服褒めるとかさ」 火竜公女 ゴゴゴゴゴ 勇者「あー、うん! よく似合ってるぞっ。 公女はスタイルが良いからどんな服でも似合うけれど、 今日のは異国情緒が合って素敵だな! ……その、ちょっと露出が多いような 気がしないでもないが、祭りだしな!」 東の砦将「あ、馬鹿。それは褒めすぎだ、知らんからなっ」 火竜公女「そ、そ、そうですかっ!? 我が君っ! 妾はっ。妾は三国一の果報者でございます!」 123 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/08(火) 20 04 29.19 ID I63MLpWkP ――冬越しの村、魔王の屋敷、執務室 魔王「ふむ……」 メイド長「今月に入って、もう2度ですから」 魔王「間隔も短くなってきているな」 メイド長「ええ、限界かと……」 魔王「あと、どれくらい余裕がある?」 メイド長「早ければ、早いに越したことはありませんが。 そうですね……一週間程度なら」 魔王「よかろう。一週間後だ」 メイド長「……心中、お察しいたします」 魔王「いや、なに。二年近くだ。良くもったものさ。 いずれこの日が来るとは判っていた」 メイド長「はいっ」 魔王「冥府宮に我が寝台を運ばせておけ」 メイド長「承りました」 魔王「人間界の仕事の後始末を急がねばな」 メイド長「はい」 魔王「そのような顔をするな」 メイド長「……」 魔王「すぐに戻れる。すぐにまた会えるさ」 128 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/08(火) 20 12 48.73 ID I63MLpWkP ――鉄の国、郊外の丘の上 しゅいんっ! 魔王「ふぅ、こちらはまだ空気が湿っているな」 メイド姉「頭の中がくわんくわんします……」 勇者「大丈夫か」 メイド姉「は、はい……」 魔王「無理はせず、大きく息を吸え」 勇者「考えてみたら転移呪文は初体験だったな」 メイド姉「はい。なんだか、目眩みたいで……。 ふぅ、もう大丈夫です」 魔王「転移酔いだな、仕方がない」 勇者「ゆっくり歩けば、回復するだろう」 ざっ、ざくっ、ざくっ 魔王「街までは、20分と云うところか」 勇者「そんなもんかな」 メイド姉「あれが鉄の国の都ですか! 大きいですねぇ!」 魔王「うむ、煙がたなびいているだろう? 数多くの工房が並んでおるのだ」 132 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/08(火) 20 18 25.84 ID I63MLpWkP 勇者「それにしても、今日は何の仕事なんだ?」 魔王「ああ、頼んでおいた機械の試作が出来たそうでな」 勇者「見に来たのか? メイド姉も?」 魔王「最近、わたしの仕事を色々教えておるのだ。 貴族よりも商人よりも筋が良いぞ」 メイド姉「そんなこと、ないです……」 魔王「ほれ、市街地に入るぞ」 門衛「止まれ!」 門衛「どこからやってきた、商人か?」 魔王「冬の国の学者だ。これが身分証明」 門衛「冬の国の国王印。そうでしたか! どうぞっ!」 魔王「身分も、役に立つものだな」 勇者「面倒がないのはありがたいよ、ほんと」 メイド姉「すごいですねぇ! 家がみんな石で出来てますよ?」 魔王「こらこら、上ばかり見ては危ないぞ」 135 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/08(火) 20 23 40.86 ID I63MLpWkP 勇者「で、どこへ行くんだ?」 メイド姉「どこでしょう?」 魔王「うむ、判らん」 勇者「なんだよ、頼りないな。手紙を見せろよ」 魔王「これだ」 ぺらっ 勇者「ああ、これは川沿いの職人街だな」 メイド姉「お詳しいのですね!」 勇者「勇者は風来坊だからな、色んな街でもめ事を 解決する旅だから地理だけは詳しくなるんだよ」 メイド姉「すごい特技ですよ」 魔王「わたしの物だからな。ふふんっ」 勇者「はいはい」 魔王「ほほう、あれは鉄か? こちらの工房では、銀細工か」 勇者「興味津々だな」 魔王「現場を見るのは初めてだからな」 勇者「今日は、何の工房にいくんだ? 武器か、農具か?」 魔王「工房自体は、銅の鋳造を行っている工房だ。 だが武器でも農具でもないな」 141 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/08(火) 20 28 42.95 ID I63MLpWkP 魔王「勇者とは以前、教育について話したことがあったな」 勇者「ああ、そうだな」 メイド姉「……」 魔王「わたしは、教育はこの世界においてもっともっと 大きな力を持っているのじゃないかと思う」 勇者「……ふむ」 魔王「本当の世界の広さは誰にも判らないほど広いのだ。 それを人間は……魂ある存在は、己の常識や、知識に 当てはめて知ったつもりになる」 勇者「それは、覚えがあるなぁ。 自分のやり方しかないと思い込んだり、 自分が正しいと思い込んだり」 メイド姉「はい……」 魔王「それらの闇を払うには、教育が必要だ。 しかも、教育がより重要である理由は “教育が重要であるという事実”も教育がないと 理解されないという点にある」 勇者「ん? ちょっと難しいぞ」 144 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/08(火) 20 39 19.79 ID I63MLpWkP メイド姉「それは、そうなんです」 勇者「判るのか? メイド姉は?」 メイド姉「はい。そのぅ…… たとえば、農奴は、教育が、つまり知識が少なくて “もっと良い世界がある”事もよく判ってないんです。 だからずっと貧しいんです」 勇者「でも、地主だのなんだのは良い生活してるだろ? そういうの見てるじゃないか」 メイド姉「でも、“そっちに行く方法”が判らないんです。 ううん、正確には“そっちに行けるかもしれない”って 事すらも判らないんです」 勇者「……」 魔王「……」 メイド姉「それは、とても不幸なことです。 だからわたしには当主様の話はよく判ります」 勇者「そっか……」 154 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/08(火) 20 49 05.09 ID I63MLpWkP 魔王「さて、そんな風に重要な教育だが、 重大な欠点というか、弱点がある。判るか?」 勇者「なんだろう? なぁ?」 メイド姉「判りませんね……」 魔王「それは、速度が遅いと云うことだ。 一人の人間が持つ知識を他の一人に伝えるのには 莫大な時間がかかる。 しかも、同時に多数の人間に伝えるのには限界がある。 もし仮に、一人の教師が自分と同等の生徒一人を 育てるのに一生の時間がかかるならば、 知識を持っている人間は増えないことになるではないか」 勇者「あー。まぁ、云われてみればそうだなぁ」 メイド姉「でも、知識は尊い物ですからそれも仕方ないの ではないでしょうか? 当主様を学べば学ぶほど、 追いつける気がしませんし……」 魔王「それもまた、勝手に思い込んだ限界だ」 勇者「そう、なのか?」 159 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/08(火) 20 53 49.16 ID I63MLpWkP ――鉄の国、職人街、大型工房 がちゃり 職人長「やぁ。これは学士様! 長旅、お疲れになったでしょう!」 魔王「世話になっているな、職人長」 職人長「いやなんの! この年齢になって まだこんなに面白い仕事をくださるなんて、 みなの意気も上がっておりますよ」 メイド姉「広い工房ですね!」 職人長「ああ、あまり歩き回ると危険ですよ、お嬢さん」 プシュー!! 職人長「熱い蒸気なども使っていますからね!」 メイド姉「はいっ」 職人長「さて、お疲れでしょう。お茶でも入れますので、 裏の屋敷の方にでも……」 魔王「いや、結構。何よりも、まずは試作品を見たい」 職人長「あははは。冬の国で話したときと その性急さは変わりませんなぁ! さぁ、お連れ様も こちらへどうぞ。専用の倉庫を設けたのですよ」 162 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/08(火) 20 57 58.44 ID I63MLpWkP 魔王「これか!」 勇者「でかいなぁ!」 メイド姉「これは、なんですか……? 脱穀機に似ているような、もっと大きなような……」 職人長「外側は仮組ですから、 どうしても大きくなってしまいました。 もっとも本体は小さい物です。巨大に見えるのは、 ある種の棚というか、倉庫ですね」 勇者「倉庫?」 職人長「いらっしゃい」 カツン、カツン、カツン メイド姉「引き出しと、棚がすごい数ですね」 職人長「これが入っているんですよ」 コロンッ 勇者「これは、印章?」 メイド姉「ハンコですか?」 職人長「ええ、『活字』と呼んでいます」 魔王「これが、私たちの新しい武器さ」 職人長「活版印刷機と名付けました」 169 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/08(火) 21 03 57.87 ID I63MLpWkP ――冬越しの村、魔王の屋敷、深夜の廊下 女騎士「……」じぃぃっ 魔王「……」じぃっ 女騎士「な、なんで、こ、こんなところにっ」 魔王「それはこちらの台詞だ」 女騎士「いや、その洗面所はどこかなぁと」 魔王「洗面所は廊下の反対だ」 女騎士「大体、魔王は何でこんな所に?」 魔王「そっ、それはだな」 女騎士「それは?」 魔王「ええい、なんだ! 女騎士のその白いふりふりの寝間着は! これは、き、き、絹ではないかっ!!??」 女騎士「いいではないか、人が何を着ようとっ!」 魔王「良くはないぞっ。そんなもの」 女騎士「それを言うなら、魔王は何で枕を抱えているんだっ」 177 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/08(火) 21 10 37.74 ID I63MLpWkP 魔王「……それはその」じりじり 女騎士「そこ、ドアににじり寄るんじゃない」 魔王「べつにそんなことはしていない」 女騎士「勇者の部屋にこんな夜更けに行くつもりなのか?」 魔王「か、かまわないではないか。夜の茶会だ」 女騎士「それならこっちだって夜のお茶会決行だっ」 魔王「どこの世界に絹の寝間着で男の部屋に 尋ねるお茶会があるのだ! この馬鹿!」 女騎士「枕持参でお茶会と言い切る馬鹿よりは まだましな馬鹿だ!」 魔王「うむ。あー、こほん。女騎士」 女騎士「なに?」 魔王「わたしは女騎士を人間界で ほとんど唯一の友達だと思っている……」 女騎士「……うん、そうだね。魔王」 魔王「だから見逃してくれ」 女騎士「それはダメ」 186 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/08(火) 21 15 46.92 ID I63MLpWkP 魔王「後生だ。事情があるのだ」 女騎士「こっちだって事情があるの」 魔王「どんな?」 女騎士「これだっ」 ばっ! 魔王「なになに? 『我が君への永久の忠誠を誓って』? これは女物のハンカチではないか……。 え? ええっ!?」 女騎士「そうだ、あんの火竜公女だ。 こっちがなんやかやの仕事で忙殺されていると思って、 こんな粉かけるとは喧嘩を売るにもほどがある」ゴゴゴ 魔王「確かに……」ゴゴゴ 女騎士「そういう訳なので、今宵の私は退くに退けん。 愛剣・神性惨殺も血に飢えている」 魔王「どんな事情だ! こちらだって、残り数日のっ」 女騎士「?」 魔王「いや、なんでもない。とにかく、こちらも退けないっ」 メイド長「それでは私めが」 魔王・女騎士「え?」 193 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/08(火) 21 24 27.59 ID I63MLpWkP 魔王・女騎士「えぇっ!?」 メイド長「夜伽でしょう? そんなことでもめるなんてはしたないですわ。 不肖、私がお務めさせて頂きます。 それで角が立たないでしょう?」 魔王「なんて事を云うんだメイド長!?」 女騎士「まったくだ、なんて横暴なんだ! 恥を知れっ!」 メイド長「だいたい未経験者の相手なのですから そんなにぴりぴりした気持ちで居てどうします? 成功もおぼつきませんよ。 こんな時こそ包容力と寛容の精神が必要なのです。 閨房で殿方を甘えさせられなければ一人前とはいえますまい」 魔王「それは、そうかもしれんが……」 女騎士「たしかに婦女としてはずべきであった」 メイド長「ではちゃっちゃと済ませてきますので、 そこで待っててくださいますね」 魔王「それとこれとを一緒にするなぁ!」 女騎士「それは騎士として諾とは云えないぞ!!」 メイド長「では、廊下でなんか騒がないで お二人で。いえ、三人で仲良くしてください」 にこりっ がちゃ! ポポイッ! 199 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/08(火) 21 29 42.50 ID I63MLpWkP ――冬越しの村、魔王の屋敷、勇者の部屋 ごろごろごろ、ズテン! 魔王・女騎士「ふぎゃっ!!」 勇者「……なにやってるんだ? お前ら」 女騎士「いや、その。こ、これはな! 事情があるんだ」 魔王「うむ、話せば長い事ながら深くやむにやまれぬ事情が あるのだ知っての通り世界情勢は混迷を極め我らが立場も また深い迷夢の中と言って良いというこの時期にだな」 女騎士「他人の錯乱を目にするとちょっと落ち着くな」 魔王「つまり、今後の展望と展開を踏まえた思索の果てに 光明を見いだすべき勇者と我らが腹を割って話すことこ そが今もっとも求められていることなのではないか? たしかにぷにぷにと云われるリスクはあるのだが、 我らはそろそろ次のステップを踏むべきなのではないかと」 勇者「落ち着け」 スコン! 魔王「ぐっ!」 203 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/08(火) 21 34 04.82 ID I63MLpWkP 勇者「で、要約するとどういう事なんだ」 魔王「……」ちらっ 女騎士「……」ちらっ 勇者「アイコンタクトとってんじゃねぇよ」 魔王「ではタイムだ」 勇者「は?」 魔王「あちらで作戦会議をするから、聞くなよ?」 勇者「はぁぁー?」 こそこそっ 女騎士「作戦ってどんな作戦があるんだ」 魔王「これでも私は話し合いの魔王なのだ。 交渉は我が領域。話し合いで決着をつけよう」 女騎士「どんな?」 魔王「上は私で下が女騎士でどうだろう」 女騎士「どこの変態なのだっ。魔王はっ!?」 勇者「ひまだなぁ」 209 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/08(火) 21 38 10.54 ID I63MLpWkP 魔王「変態とは何だ? ベッドの上下だ」 女騎士「そ、そうか。済まない、誤解した」 魔王「それでいいか?」 女騎士「ちょっとまって、勇者は?」 魔王「ベッドの上に決まってる」 女騎士「私だけ下じゃないか、どこのいじめだ!」 魔王「だめか、ではタイムシェアリングはどうだ?」 女騎士「たいむしえあ? なにそれ?」 魔王「時間によって案件を共有するのだ」 女騎士「マシそうな提案ね」 魔王「生産性向上のための基礎知識だ」 女騎士「で、具体的には?」 魔王「勇者のベッドを陽のある間は女騎士が、 陽が落ちてからは私が使う」 女騎士「魔王だけ勇者つきではないかっ!?」 勇者「なんか小腹へってきたし」 216 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/08(火) 21 46 44.50 ID I63MLpWkP ――冬越しの村、魔王の屋敷、勇者の部屋 勇者「なんだこの状況は。何が起きてるんだ!?」 魔王「交渉とは妥協の婉曲な表現でもある。 その現実の哀しい写し絵だ」 女騎士「私だって不本意だ。しかし、しかたない。 “パンが一つ無いときは半分で感謝しなければならない” そうお祖母ちゃんも云っていた」 勇者「すげぇ粗末な扱いだよなぁ、俺」 魔王「何を言うんだ! 両手に女を抱えて!! まさか、勇者。……ふ、ふ、不満なのか」 女騎士「火竜のなんとかの方が良いって 云うんじゃないでしょうね!?」 勇者「いや、そうじゃなくてっ」 魔王「ぷ、ぷにぷにだからダメなのか!? 駄肉だからか!? 勇者は私の所有契約なのだぞ」むぎゅっむぎゅっ 女騎士「胸がないとだめなのかっ!? そんな腐った肉がいいのか? 乙女の最上級は清らかさだぞっ。 神に捧げられた純潔の方がいいに決まってるっ」すりすり 勇者「ううう、なんでだよう。なんでこうなんだよ」 230 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/08(火) 21 52 09.48 ID I63MLpWkP 魔王「むぅ。このままではメイド長のいうとおりだ」 女騎士「……腹立たしいけど、そうだな」 魔王「一次休戦だ」 女騎士「心得た」 勇者「いつも俺の頭越しに会談がまとまるよ」 魔王「頭越しではないぞ? こうやって耳元で横になっている」 女騎士「うむ、肩に頭をもたせかけているだけだ」 勇者「……」びくびく 魔王「勇者は緊張しているのか?」 女騎士「自分の寝床なんだからそんなことはないだろう」 勇者(緊張してるよっ! しないわけないだろがっ!?) 魔王「まあ落ち着け」 女騎士「うん、戦場では冷静が生死を分けるぞ」 勇者(絶体絶命だ!) 魔王「暖かいなぁ! もふもふだ!」 女騎士「うむ、意外なほどに寝心地が良いな」 241 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/08(火) 22 02 03.90 ID I63MLpWkP 勇者「……すー……すー」 魔王「寝たのか? 勇者」 女騎士「かもしれないな。疲れているのだろうし」 勇者(寝れるかっ。この状況下で寝れる童貞が居たら 俺が全部雷撃魔法で電気椅子にしてやるわっ!!) 魔王「勇者の髪は、もふもふだ」 女騎士「うん、大きな犬みたいだね」 魔王「この髪を触るのが好きなのだ。 勇者の髪を整えているのはわたしなのだぞ?」 女騎士「わたしの方が付き合いは長いから。そんなの知ってる」 勇者「……すー……すー」 勇者(だ、だめだ。寝たふりをするしかない。 精神を鎮めるんだ!! 高まれ俺の魂!) 魔王「……」 女騎士「……」なで、なで 魔王「なぁ、女騎士」 女騎士「なに?」 249 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/08(火) 22 08 26.33 ID I63MLpWkP 魔王「わたしは、来週にでも魔界へ帰る」 女騎士「へ?」 勇者(え?) 魔王「いや、なに。魔王の免許更新のようなものでな」 女騎士「免許? 免状みたいなもの?」 魔王「そうだ」 女騎士「そっか……。すぐ帰ってくるの?」 魔王「いや、どうかな。早くて数ヶ月はかかると思う」 女騎士「何かあるの? 魔王……躊躇ってるよね?」 魔王「いや迷いはない。仕方ないことだ。 魔王というのは、何というか……。 魔王以外には上手く説明できないこともあってな。 代々の魔王の墓があるんだが、そこへ詣らないといけない」 女騎士「……」 魔王「それに、魔界にはたくさんの氏族があるが、 それらの多くは人間界侵攻に賛成なのだ。 今戦争が小康状態なのは、魔王であるわたしが 勇者と相打ちになり怪我の療養をしているという話に なっている事が大きい。 そろそろ姿を見せて、魔族の心をまとめなければ、 かえって暴走した一部の氏族が勝手に戦争を再開する かもしれない」 251 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/08(火) 22 21 00.90 ID I63MLpWkP 女騎士「でも、それなら……」 勇者(……) 魔王「ん?」 女騎士「魔王は、魔界で戦争賛成派のまっただ中に 取り残されることになるんじゃないのか? それはすごく危険なように聞こえる」 勇者(……) 魔王「わたしの専門は経済、すなわち交渉だ。 そこまで酷いことにはならないさ。だいたい金も 食料も無しで戦争を続けられる生き物なんて居ないよ」 女騎士「しかし誰か連れてった方が良いだろう? その……。勇者とか。なんならわたしが行こうかっ」 魔王「いや……」なで…… 女騎士「……」 魔王「いいんだ。魔王の墓は、冥府殿というのだが、 そこにはどうせわたし以外は誰も入れないのだ。 ついてきて貰うには及ばない。一人で行く」 253 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/08(火) 22 23 31.94 ID I63MLpWkP 女騎士「そう……なのか……」 魔王「うん、だから、ちょっとだけ勇者の体温が欲しくてな」 勇者(……) 魔王「駄々をこねてしまった。許されよ」 女騎士「いや……」 魔王「もちろんメイド長はつれてゆく。身を守る程度なら 二人でどうとでもなる」 女騎士「そうか」 ほっ 魔王「こちらの世界のことは、書類を残してゆくし、 馬鈴薯や農業については女騎士も知っての通りだ」 女騎士「うん、修道会に任せて欲しい」 魔王「『同盟』に頼んだニシンも届こう。 そろそろ風車の代金や新型羅針盤の契約料も入ってくるはずだ。 これらの利益管理も『同盟』に依頼してある。 必要なときは相談してくれ」 女騎士「承知した」 魔王「細かいことはみな、メイド姉に教えてある。 そして……。 勇者のことを頼む」 女騎士「わかった。――その命、この剣に賭けて守ろう」 366 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 15 37 01.74 ID CkBATQ0gP ――冬越し村、魔王の屋敷、執務室 魔王「さて」 メイド姉「はい」 メイド妹「はーい」 魔王「大体飲み込めたか?」 メイド姉「判りました」 メイド妹「よくわかんない」 メイド長「妹は、お姉さんの云うことをちゃんと聞いて 毎日のやることをこなしていくんですよ?」 メイド妹「はーい!」 メイド長「語尾を不必要に伸ばさない」 メイド妹「は、はいっ」 魔王「なに、気負うことはない」 勇者「やはり長引きそうか?」 魔王「メイド長の手の者に調べて貰っているが、 氏族の長の中には頑固者も居るからな。 人間世界が宝の山に見えている者も居るだろうし。 何を考えているやら……。 そんなものは、隣の芝生に過ぎないのだが」 370 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 15 42 05.60 ID CkBATQ0gP 勇者「やっぱり俺も行くべきじゃないか?」 魔王「一人で行く」 勇者「……」 魔王「そのような顔をするな。 どちらにせよこれは魔王の仕事なんだ。 魔王でなければ出来ないこともする。 約束する、無理はしない」 メイド長「わたしがまおー様のことは守りますわ」 魔王「うん、メイド長が居るからな」 勇者「……」 魔王「それに、この世界のことだって心配だ。 南部諸王国は安定してきたし、農業改革も順調だとは云えるが 聞いた話だと、白夜王国は政情不安定になってきていると 云うじゃないか」 勇者「らしいな」 魔王「わたしがこの世で一番信頼しているのは、勇者だ。 何せわたしの持ち主だからな」 372 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 15 47 53.84 ID CkBATQ0gP 魔王「だから、この場所に勇者を残していくのは、 心強いことなんだ。 前回は勇者が魔界に行って、わたしは残った。 農業改革や技術指導は、わたしにしか出来なかったからだ。 だが、今回は違う。 開門都市の件で勇者がもうただの戦士じゃないことは判っている。 もう一人のわたしだ。 だから、ここを任せる」 勇者「……判った」 魔王「それから、メイド姉」 メイド姉「はい」 魔王「これを預けよう」 メイド姉「指輪、ですか?」 魔王「ああ、知り合いの地妖精に作らせたんだ。 大したことはないが、姿変えの幻術が仕込んである。 幻術だから声や仕草はどうにもならないが、 わたしの姿になれるぞ」 メイド姉「どういうことでしょう?」 魔王「商人からの代金の受け取りや、尋ねてきた客人 と 会わなければならないときもあろう? 大抵は勇者がうまくやってくれるだろうが、 どうしても必要なときは、この指輪でわたしの替え玉を やってくれ」 373 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 15 53 26.57 ID CkBATQ0gP メイド姉「判りました」 メイド妹「当主のおねーちゃん!」 魔王「ん、なんだ?」 メイド妹「おみやげ。ね♪」にぱ メイド長「これ!」 魔王「あははは。うん、何か見繕ってこよう」 勇者「……」 メイド姉「無事のお帰りを祈っております」 メイド妹「お祈りしてるー!」 魔王「うむ。早ければ三ヶ月、長くても半年といったところか」 メイド長「おなかを出して寝ちゃいけませんよ?」 メイド姉「いってらっしゃいませ」 メイド妹「いってらっしゃーい♪」 しゅいんっ! 376 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 15 57 38.85 ID CkBATQ0gP ――開門都市、街外れ ひゅわんっ! 魔王「やはり勇者の転移魔法は便利だな」 勇者「運び屋は任せてくれよ」 メイド長「まおー様のよりずっと転移酔いが少ないですね」 魔王「うん、久しぶりの魔界だ!」 メイド長「そうですね、緑色の太陽。懐かしいですわ」 魔王「ここは――うん。大体判った、都市の南の外れだな」 勇者「そうだ、丘を下れば開門都市の南門に出る」 魔王「よし、ではここでお別れだ」 勇者「いや、街までは送るよ」 魔王「いいや、ダメだ。勇者は街に近づくな」 勇者「へ?」 魔王「と、とにかく禁止だ。 ……そんな、そのぅ。火竜の小娘に会いに行かなくても……」 勇者「?」 魔王「ええい。勇者!」 勇者「おう?」 魔王「もふもふさせろ!」 わしゃわしゃ! 378 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 16 03 27.05 ID CkBATQ0gP 勇者「なっ、なんだよいきなり!」 メイド長「あらあら、まぁまぁ」 魔王「なぁに。ちょっとした燃料補給だ」 勇者「――大丈夫なのか?」 魔王「勇者は心配性だな。男が廃るぞ」 勇者「とは云ってもなぁ」 魔王「大丈夫だ。今エネルギーを貰ったからな。 先代たちが束になってかかってきたところで 負ける気はしない」 勇者「……」 魔王「それに、やっとここまで来た。 わたしにも開門都市の明るい空気が感じられるぞ。 人間と魔族が一緒に暮らしている街があるじゃないか。 もう、丘の頂上は見え始めているんだ」 勇者「ああ、そうだな」 魔王「だから行ってくるぞ――わたしの勇者」 勇者「おう、いってきやがれ。――俺の魔王」 魔王・勇者「「また会おう、すぐにでも」」 383 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 16 07 45.08 ID CkBATQ0gP ――冬越し村、実りの秋 小さな村人「ほーうぃ! ほーうぃ!」 中年の村人「おんや、こんにちはぁ」 羊毛職人「こんにちはぁ!」 小さな村人「きょうは一杯だぁね、どうするんだい?」 羊毛職人「ああ、もう秋だからねぇ。チーズの仕込みをしないと」 小さな村人「ああ、そうかぁ。今年はどんな案配だい?」 中年の村人「アーモンド入りのは作るだか?」 羊毛職人「良いよぉ、ミルクの出も良いし。 もちろんアーモンド入りのも作るだぁよ。 クローバーの葉をたっぷり食べてるせいかなぁ。 今年のミルクは、すごく甘いだよ」 小さな村人「そりゃぁ、良いことを聞いただよ」 中年の村人「小麦か馬鈴薯ととりかえてくれるだか?」 羊毛職人「もちろんだよ。銀貨でもかまわないよ?」 小さな村人「そういや、銀貨も使うようになっだぁね」 中年の村人「そうだなや。うちは埋めて貯めてるだよ」 羊毛職人「あんれまぁ。そうだね、用心せんとね」 386 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 16 11 55.63 ID CkBATQ0gP 小さな村人「こっちは馬鈴薯の畑に、灰と魚カスを撒くだよ」 中年の村人「撒くのかい?」 羊毛職人「魚カスってなんだべ?」 小さな村人「教会で教えて貰った、肥料だなや。 大地の恵みが弱らないように撒くと良いらしいだよ」 中年の村人「でも、お金がかかるんがなぁ」 羊毛職人「そうなのかぁ」 小さな村人「まぁ、でも、たいした金額じゃねぇさ。 修道士様が教えてくれた馬鈴薯で作った金だ。 その修道院にお返ししたって罰は当たらないべ」 中年の村人「そりゃ、そうかもしれんなぁ」 小さな村人「それに、撒かないと馬鈴薯は病気に なりやすいっていうべさ。うちんとこは小麦の畑は 減らしたから、馬鈴薯病気になったら困っちまう」 中年の村人「そうか、そうか。おらんとこも撒くかなぁ」 羊毛職人「おらは、自分の腹にニシン詰めてぇな」 小さな村人「あははは! 酒場でバター焼きを詰めるべ」 中年の村人「ああ、そりゃいいだなや!」 羊毛職人「チーズが一杯売れたら考えるだぁよ」 小さな村人「そうすべなぁ!」 387 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :2009/09/09(水) 16 17 57.20 ID CkBATQ0gP ――聖王都、貴族院 がやがやがや 軍閥貴族「――開門都市を放棄して――」 富裕貴族「おめおめと――退却――とは」 司教「精霊の――にも――処罰――」 軍閥貴族「さすがは――弱腰の貴族――」 富裕貴族「――妾腹――な」 司教「王国臣民――100万の――」 軍閥貴族「この罰――」 富裕貴族「極刑――磔刑――」 司教「塩――すりこみ――焼きごて――」 がやがやがや 軍閥貴族「判決を――」 富裕貴族「いや、いまこそ――軍事法廷――」 司教「しかるべき――宗教裁判――」 軍閥貴族「敵前逃亡――任務放棄――」 富裕貴族「王国に対する裏切り――利敵行為――」 司教「神聖冒涜――」 ページトップへ <前2-5へ|次3-2へ>
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<前4-1へ|次4-3へ> 魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」4-2 171 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/10(木) 21 16 17.31 ID I7KnzzEP 勇者「だったら余計にどうにかしろよ、じゃなければ怒れよ!」 鉄腕王「とはいえ、事態はもはや異端が どうという範囲でもないしのう」 氷雪の女王「ええ」ほぅー 勇者「へ?」 鉄腕王「あんなことを言い切られてはなぁ」 冬寂王「はい」 勇者「……?」 氷雪の女王「いえ、ちゃんと説明せねば。勇者殿は、その……。 人間界に帰られて日が浅いのでしょうしね。 つまり、おそらく中央はまだ異端という言いがかりを つけてくるとは思うのです。もちろんそれはあくまで言いがかり。 中央の狙いは我らが結束を脅かし、弱体化することですが……」 冬寂王「つまり、問題の本質は “我らが中央にたいして独立するか、否か” と云う問題だったわけだ。」 勇者「そんなこたぁ、判ってますよ」 冬寂王「しかしメイド姉くんの演説で、風向きは変わってしまった。 中央にとっては今までどおりかもしれないが、 我らにとっては……つまり、南部諸王国にとっては “独立を希望する民に、国がどう向き合うか” と云う問題になってしまったのだ」 175 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/10(木) 21 22 28.37 ID I7KnzzEP 勇者「……」 メイド姉「す、す、すみません」 冬寂王「あの演説の衝撃はけして小さくなかった。 そして燎原の火のごとく勢いを強めて燃えさかるだろう」 将官「現に、近郊では農奴を奴隷扱いしていた地主への 反乱めいた騒動もいくつか起きているようですし」 女騎士「うむ」 鉄腕王「と、なればわしらとしてもな」 氷雪の女王「ええ」こくり 冬寂王「せめて民と共に歩みたい」 鉄腕王「なーんていっちゃって。 農民に串刺しにされるのが嫌なだけかもしれないがのっ!」 氷雪の女王「あらあら。我が国ではそんなことは 起きませんわ。おほほほほほ。ひっく」 勇者「って、あんたらぁ!? 飲んでるじゃないですかっ!」 冬寂王「いやぁ、そう言うこともあるようだな。あはは」 鉄腕王「ごっきゅ、ごっきゅ、ごっきゅ」 氷雪の女王「まぁまぁ、この程度南部諸王国では 気付け程度の意味合いですわ」 ぽわぁ 180 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/10(木) 21 30 22.49 ID I7KnzzEP メイド妹「美味しい! 美味しいよ、このパン♪」 将官「美味いですよねぇ」ほくほく 商人子弟「暖かいところが良いねぇ」 メイド妹「どうやって、この甘さを出してるのかなぁ」 将官「干し葡萄だとか云ってましたよ」 勇者「じゃぁ、もうそのっ! そっちの事情はわかったとして!」 冬寂王「ふむふむ」 勇者「これからの方策とか、方針とか、作戦とかを かんがえてるのかよ、ちゃんとっ!」 女騎士「勇者」きりっ 勇者「そこっ、一番。女騎士っ」 女騎士「わたしは考えることが苦手だ」 えへんっ 鉄腕王「あはははははは!!」 女騎士「勇者の純潔は、わたしがまもるっ!」きりっ 勇者「誰だこいつに飲ましたの、うわっ。酒くせぇ。 ……ひーふーみー。4? 5杯かぁ!?」 女騎士「湖畔騎士流戦闘術と、愛剣・惨殺三昧は無敵だっ!」 185 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/10(木) 21 37 41.59 ID I7KnzzEP 氷雪の女王「では次はわたしですね」 勇者「よし、二番。氷雪の女王。胸はでかいが年増」 氷雪の女王「既婚者ですからね。 そそういう突っ込みを入れる殿方は埋めますよ? さて、問題の対応策ですが、これはもう 農奴の開放政策しかないでしょうね……」 勇者「以外にまともな意見だ」 氷雪の女王「馬鈴薯のお陰で扶養人口は倍増していますから 今なら、さほど無理なく方向転換が出来るとも思えます」 鉄腕王「しかし、それは中央との戦争がなければであろう?」 勇者「その辺はどうするんだ?」 氷雪の女王「戦争は殿方のお気に入りですからお任せします。 ぐっぴ、ぐっぴ、ぐっぴ。あら、もう一杯お願いね」 将官「はぁ、もってまいります」 勇者「だ、だめだ。このおばさんも何も考えてない……」 189 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/10(木) 21 41 41.42 ID I7KnzzEP 鉄腕王「ふふん、では真打ちの登場と 行こうじゃないか。勇者殿っ。我こそは鉄の国6代、鉄腕王じゃ!」 ドーン! 勇者「あんまり気乗りしないけど、じゃ三番、鉄腕王」 鉄腕王「まずは我が三カ国連合軍で、北の平野に前線をひく。 我が領土の収穫量を減らさぬため、今度は出戦となろう。 余剰食料を元手に傭兵も雇い入れる。 なあに、まだ中央からの義援金は残っておる。 いいや、実を言えば先代王の頃から少しずつ蓄えておったよ」 勇者「おおお! 初めて堅実な言葉が聞けたっ!」 鉄腕王「そして、進軍してくる異端審問官および捕縛軍、 または中央国家連合軍を、北の平原で迎え撃つ。 過去の遠征軍の規模からして、5万を超えると云うことは まずありえないだろう。これを初戦で撃破!」 勇者「ふむふむっ」 鉄腕王「そのまま北上、駐留軍を撃破! 城を攻略! 恭順の意を示す国家は次々と組み入れ、連戦連勝! とどろく我が無敵鉄鋼からくり部隊っ!」 勇者「……」 鉄腕王「そのまま聖王都に肉薄し、昼夜を分かたぬ 波状攻撃にて、王都陥落っ! 後顧の憂い無し。 物語は大団円を迎えるのじゃー! がははははは」 勇者「はい消えたー」 192 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/10(木) 21 49 21.56 ID I7KnzzEP 勇者「……もうね、なんかね」 メイド姉「すいません、勇者様」 冬寂王「ふぅむ。これは政策の根本から見直す必要があるな」 勇者「何か良い考えでもあるのか? 王様」 冬寂王「正直、無い」 勇者「がくっ」 冬寂王「だが、整理をしてみれば……、何か思いつくかもしれん」 勇者「あーもう。おい、誰かー? 何か思いついたやつは居ないのかよ」 将官「あのー」 勇者「おお、君は?」 将官「将官は名も無き軍人であります、勇者殿!」したっ 勇者「いや、素面というだけで君は有用な人材だ」 将官「将官もなにも思いつきはしませんが、 いくつか気にかかることを。 いや、気が付いたこと、とでも云いますか」 勇者「ふむ」 194 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/10(木) 21 56 17.97 ID I7KnzzEP 将官「まず、おそらく、中央はすぐには 軍を発しないと思われます」 商人子弟「それはそうでしょうね」 勇者「根拠は?」 商人子息「まず、第一に中央の意図は、南部諸王国を屈服 させることであって滅ぼすことではないということです。 南部諸王国が滅びたあと、魔族の侵攻があった場合 結局は自分達の身を守る盾が無いことに気がつくでしょう? ですから、このあと、さらに圧力を強める何らかの 手を打ってくるのではないでしょうか?」 将官「それに、中央の持っている軍事力の殆どは 貴族の元に分散されています。 ですから集合や準備に時間もかかりますし もし軍を発するのならば、その報酬も問題になります。 この場合、報酬は……考えたくはありませんが わが南部諸王国を解体して、 貴族に分け与えることになるでしょう。 ですから、軍を発するとなれば、南部諸王国を 消滅させるつもりです。その準備には時間がかかる」 勇者「ふむふむ。どれくらい猶予があるんだ?」 冬寂王「いまは冬だからな。短くても春まで。 普通に考えれば、半年以上はかかるだろう」 200 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/10(木) 22 05 40.90 ID I7KnzzEP 勇者「半年かぁ……」 冬寂王「だが……いや……。そのような……ある、とすれば」 将官「……?」 勇者「どうしたんだ、王様?」 冬寂王「いや、なに。ちょっとした、懸念をな。 無いとは思う。ありえないとは、思うのだが……」 氷雪の女王「なんですか、若き王よ。じらしてはいけませんよ」 鉄腕王「がっはっはっは。なんでも忌憚なく言うが良い!」 冬寂王「聖王都が、魔族と……すくなくとも、魔族の一部と 手を握るなどということがあるだろうか?」 ぞくっ 冬寂王「いや、ただの思い付きだが。あははは。 まぁ、そうなれば、魔族の再侵攻についてもある程度は 安心が得られようしな。我らが南部諸王国に対する圧力も ずっと自由度が上がるのではないか。 たとえば、魔族の侵攻にあわせて、再び異端告発を行い 動揺と経済的疲弊を狙う、といったような……。 いや、空想的なことを云ってしまった」 205 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/10(木) 22 12 29.51 ID I7KnzzEP 勇者「まぁ、そいつについては、俺が偵察して事情を 探ってくるしかないとして……」 女騎士「なぬ!? お出かけか? お出かけなら お供するぞ勇者っ。地の果てまでも惨状、いや参上だっ」 勇者「えい、沈んでやがれ」スコンッ 女騎士「くふっ」 どでん! 勇者(えーっと、何から手をつけりゃ良いんだ……。 どれがどうなってんだよ、もう……っ) 勇者(こんなとき、あいつならどうする? あいつならどう考える? 表面を考えちゃダメだ。 構造と、利害関係を……。 わ、わからーんっ!?) メイド妹「でねー! じゃーん! これがパイですー!」 将官「おお! これはなんとも雅な……」 勇者(そもそも、何で戦ってるんだ。俺達は。 領土争い……なのか? 豊かになるための。 豊かってなんだっけ……?) ――……つまり、富をため込むってのは『お金持ち』にはなれても 『豊か』にはなれないんだ。 お金を渡して、使ってもらう。物もお金も流れが よどみなく太いことが豊かなんだよ。 208 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/10(木) 22 21 57.10 ID I7KnzzEP 勇者(つまり、それは、その。 関係があるってことだよな。 物を売ったり、買ったりして流れて…… それが豊かってことだろう? じゃぁ、俺達の世界は豊かになってないんじゃないか? だって閉じてるんだから。 ……教会がやってること、聖王都がやってること。 それはなんなんだ? 世界を限定して、狭くして…… その意図はどこにあるんだ?) 鉄腕王「黄金色で綺麗じゃのう!」 氷雪の女王「これはなんじゃ? ウズラのタマゴと肉なのか?」 勇者(つまりそれは…… 教会がなりたいのは『お金持ち』なのか? それは“富の独占”。いや、富ばかりじゃない。 知識も、人気も、権力も……“独占”するってことなのか?) 商人子息「おもしろいですね、さくりとした感触が」 メイド妹「そうだよー! 洋ナシのもあるよー♪」 勇者(閉じられた環境下で、他者から吸い上げることによって 階層構造を作り出し、それを永続化させることか? そうなのか……。魔王が“違う”といったのはそういうことか) メイド姉「勇者……さま?」 ――精霊様は…… 精霊様はその奇跡を持って人間に生命をあたえてくださり、 その大地の恵みを持って財産を与えてくださり、 その魂のかけらを持ってわたし達に自由を与えてくださいました。 212 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/10(木) 22 25 49.48 ID I7KnzzEP 勇者(“独占”……“生命”……“財産” そして“自由”……。独占とは、一者が全てを占めること。) 冬寂王「ほほう、甘い味のもあるのか。うむ、美味い!」 将官「これは絶品でありますね」 鉄腕王「酒にも合うぞ、もっと塩辛くてもいけるのぅ」 氷雪の女王「軽やかで宮廷料理に比べても引けをとりませぬね」 勇者(一者とは……中心。集中する点。積み上げた石組みの、頂点) 商人子息「これは新商品になりますよ!」 メイド妹「えへへ~そうかなぁ?」 冬寂王「おお、王直筆の勅書をあたえよう!」 将官「御用達というヤツですね王様っ」 鉄腕王「おお、わしのもやるぞ」 氷雪の女王「氷の国でも是非流行させてください」 勇者「じゃかしいわっ! お前ら王族かよっ!!」 メイド姉「す、す、すみません。勇者様っ」 鉄腕王「がははは! 勇者殿も、そう泣き笑いしても しかたあるまい。勇者殿はどっちを食べる?」 勇者「どっち?」 メイド妹「ウズラのパイと、洋ナシのパイだよ♪」 219 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/10(木) 22 33 09.65 ID I7KnzzEP メイド妹「はい♪ どっちにする?」 勇者「――」 将官「勇者殿?」 冬寂王「しっ」 勇者「――」 メイド姉「……ゆうしゃ、さま?」 勇者「公布を出そう」 商人子弟「公布? 新しい税ですか? 法律ですか?」 勇者「南部諸王国三カ国は、湖畔修道会を、 国家宗教として認めると。正当なる光の精霊信仰だと」 将官「へ?」 勇者「そうだよなっ! 別に1つしかないなんて決まりは無いし! 二つあっても良いじゃんな! 選べた方が幸せじゃん! そうしよう! そうしようぜ。おい、起きろ、女騎士」ぐらぐら 女騎士「う、うぅうーん」 勇者「で、印刷機でどんどん刷らせよう! ほら、例のさ! メイド姉の演説? あれを表紙にして、湖畔修道会の教えをさ。 農業技術だって載せちまおうぜ! なぁ、いいじゃないか。 教科書の代わりにもなる。なんだったら種芋の引換券を つけちゃうってどうだ!?」 氷雪の女王「それにどういう意味があるのだ?」 勇者「頂点を二つにするのさっ。広報戦争だっ」 231 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/10(木) 22 53 01.12 ID I7KnzzEP ――湾岸都市、商業区、大きな商業会館執務室 青年商人「は?」 辣腕会計「えっと、ですから……。もう1つの教会である、と」 青年商人「……湖畔修道会が?」 辣腕会計「ええ、少なくとも南部三カ国通商同盟はそう公布しました」 青年商人「……」 辣腕会計「どう、されました?」 青年商人「ふふふふっ」 辣腕会計「?」 青年商人「ふははははははっ! そうですか! そんな手を打ちましたかっ! 誰ですかね、これは。 あの人かな。いや、違う気がしますね。 あの人はああ見えて保険を忘れない人ですから。 私にも言質はくれませんでしたしね。 このやぶれかぶりっぷりは、勇者ですかねっ。 あはははっ!」 辣腕会計「委員……」 青年商人「そうですか、もう1つの教会。あははっ。 これはすごい、傑作ですね! 聖光教会の偉いがたは 赤、青を通り越してどす黒くなっているのではありませんか?」 辣腕会計「それはもう。すさまじい怒声だそうです」 236 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/10(木) 22 59 20.48 ID I7KnzzEP 青年商人「あははは。素晴らしいっ! 見世物だとしたところで、金貨千枚の価値がある! あの老人達も冷水を浴びせかけられたような気分でしょうよ」 辣腕会計「それはそうですよ。まったく! 自分達が異端指定した人物を、聖人に祭り上げた挙句に 真っ向から対立されたんですよ?」 青年商人「情勢は?」 辣腕会計「それは、中央聖光協会が圧倒的な人数と支持ですよ。 当たり前ですがね。ただ、気になることも……」 青年商人「気になること?」 辣腕会計「こんなものが配られているんです」 青年商人「紙ですか? まだ高価でしょうに」 辣腕会計「いえ、それが、どうやら氷の国に工場なるものが あるらしく……」 青年商人「工場?」 辣腕会計「工房に似たもののようです。 沢山紙を作っているのだとか。さらにそれを鉄の国で 印刷なる方法で、文字を記しているようで」 青年商人「ふぅむ。なるほど、これは…… ハンコのようなもののようですね」 辣腕会計「ええ、読めば判りますが、どうもこれは……」 青年商人「……」こくり 辣腕会計「ええ、そうです。 農奴の権利開放を意図しているようなんです。 ですから、南部に近い王国では、この半月で ずいぶんな数の農奴が三カ国通商同盟に流入しているらしく」 240 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/10(木) 23 05 31.15 ID I7KnzzEP 青年商人「ほほう」にやっ 辣腕会計「驚きませんね」 青年商人「彼らなら、それくらいはするでしょう」 辣腕会計「そうですか」 青年商人「『同盟』内部の状況はどうです?」 辣腕会計「教皇派は3人のようです。三カ国派は2名。 残りは中立です。資産状況はこちらにまとめました」 ペラッ 青年商人「まだ機は熟していませんが……。 こちらも動き出すべきのようですね。小麦の価格は?」 辣腕会計「先週より2ポイントあがっています。上昇基調ですね。 冬ですし、このところ中央大陸の景気は低調ですから しかたありません。今年も餓死者が出そうです」 青年商人「買いです」 辣腕会計「買い、ですか? 『同盟』の抑えている小麦を 放出すれば、かなりの利ざやが期待できますが?」 青年商人「……まぁ、そういう意見が多いでしょうから “まだ値上がりしそうなので買い”と。しておきましょう」 243 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/10(木) 23 12 32.27 ID I7KnzzEP 辣腕会計「は、はぁ」 青年商人「小麦の買い指定は、とりあえず6ポイント上乗せまで 『同盟』全て、それに取引のある商人に回してください」 辣腕会計「了解」 さらさら 青年商人「それから、これは『同盟』内部の担当部署に 向けての発注です。鉄鉱石、木炭、銀。全て買いで」 辣腕会計「ポイントは?」 青年商人「不自然にならない範囲で、部署に任せます」 辣腕会計「はっ」 さらさら 青年商人「来週には100ポイント、来月一杯で250ポイントまで 小麦を買い付けますよ」 辣腕会計「っ!?」 青年商人「どうしました?」 辣腕会計「3倍以上の値段ですよ!? それは常識外れですっ! そんな買いなど、聞いたことがありません。 だいたいそれだけの資本金をどうやって調達するんですか!?」 青年商人「調査して貰った資本で十分にまかなえますよ」 辣腕会計「それにしたって常軌を逸しているっ」 青年商人「あはははっ。そう見えるだけです。 わたし達は、買い付けなんかをしている訳じゃないんですよ?」 辣腕会計「何をしていると云うんですかっ?」 青年商人「王国の金貨を、売っているんです」にこっ 343 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/11(金) 15 53 53.03 ID sQx9tPoP ――冬の王宮、広間、対策会議 将官「国境街道で見る限り、昨日は12人ですね」 勇者「うーん。思ったようもペースが鈍いな」 冬寂王「ふむ」 メイド姉「やはり、自由という考えは 受け入れられないのでしょうか……」 勇者「まぁ、難しいってのはあるだろうな」 冬寂王「言葉のない者に言葉を教えるようなものだからなぁ」 氷雪の女王「でしょうね……」 女騎士「いっそ、こう。どかんと人さらいをだな」 勇者「お前、本当に聖職者か?」 冬寂王「だが、あまりペースが遅いと冬が終わってしまうだろう」 勇者「そうだな、少なくとも冬の間にある程度の数を 取り込まないと、結局は既存路線の強さが出てしまうだろうし。 時間を掛けると、あっちの教会は信者も聖職者も わんさといるんだ。押し負ける。 うーん…… 文字を読む、ってのが意外とハードルが高いのかもなぁ」 女騎士「説法士を派遣はしているのだが、 湖畔修道会全体で50人も居ないのだ。 とても大陸はカバーできない」 勇者「ふむ……」 氷雪の女王「説法士ですか。――説法ではなくとも 良いのではないですか?」 女騎士「ん? 当てがあるのか?」 346 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/11(金) 15 56 27.27 ID sQx9tPoP 氷雪の女王「詩人はどうですか? 我が国は吟遊詩人のふるさとです。 幸い今は冬ですから、旅回りの吟遊詩人達も王都に 集まっているでしょう。 彼らに報償を出して、諸国で歌って貰うのですよ。 内容は、新しい修道会の教えで良いでしょう? そして、三カ国の行いも歌って貰う。 歌は強いですよ? 農民でも節回しさえあれば かなり難しい言葉を覚えてくれるものです。 覚えてくれれば、吟遊詩人が立ち去ったあとでも 歌の響きが続くでしょう」 女騎士「それは良い考えだな!」 勇者「どれくらいの人数が居るんだ?」 氷雪の女王「そうですね。腕の如何を問わなければ 500人近くは居るかと思います」 冬寂王「よし、早速依頼しよう。 旅の支度金はこちらで用意してもかまわぬぞ」 氷雪の女王「そうですね。……いっそ、吟遊詩人には、 この国当ての紹介状を書かせ、沢山の開拓民を 送り込んでくれた吟遊詩人には開拓民ひとりにつき、 金貨1枚の褒賞を与えるという事にしたらどうでしょう」 勇者「ああ、それがいいな! えっと、なんだっけ。 学士がいうところの、いんせんちぶだ」 冬寂王「いんせんちぶ?」 勇者「やる気があるやつに金を出す、みたいな意味だよ」 348 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/11(金) 15 57 34.68 ID sQx9tPoP メイド姉「あのぅ」 冬寂王「ん、どうしたのだ?」 メイド姉「今回の目的は、戦争じゃないんですよね?」 冬寂王「ああ、そうだ。出来れば戦争は避けたいと思っている」 氷雪の女王「そうですわね。 魔族の襲撃が何時あるか判らないこの状況では 争うのは愚かという他ないですわ」 メイド姉「では、教会とは喧嘩をするべきではないと思うんです」 勇者「……ふむ」 女騎士「どういうことだ?」 メイド姉「たぶん、教会のひとたちは、修道会の説法士さんや 吟遊詩人さんをあしざまに罵倒すると思うんです。 嘘つきだとか、悪魔の使いだとか……背教者だとか」 勇者「するだろうな」 女騎士「馬鹿の一つ覚えというやつだ」 メイド姉「ですけれど、そこで喧嘩を買ってしまったら 戦いになってしまいます。 人間同士で戦いはしたくないですよね」 冬寂王「そうだな」 メイド姉「ですから、説法士さんや吟遊詩人さん、 それをいうならばこれから印刷する紙にも、 教会を非難するような内容は盛り込むべきでは ないと思うんです」 349 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/11(金) 16 00 24.41 ID sQx9tPoP 女騎士「とはいえ、あいつらの根性が曲がっているのは 確かなことだぞ。やられっぱなしではないか」 メイド姉「そうかもしれませんけれど、 大部分の信仰者の人は、本当に光の精霊様を信じているだけの 普通の人々なんですよ? そういう人まで争いに巻き込んでも 益はないはずです」 勇者「そうだな……」 女騎士「では、無視か? こう、つーんとな。 馬鹿は相手にしないっ。と」 メイド姉「それもあまり適当ではないと思うんです。 むしろ、褒めて良いと思うんですよ。 光の精霊様は尊い存在です。 正直、勤勉、平和。 そう言った点では同意が出来ると思うんです。 ですから、中央の聖教会も否定せず、その信仰を 守っている人も尊重すべきです」 氷雪の女王「それでは開拓民達を勧誘できないではないか」 メイド姉「それは手法の差で表現するんです。 南方の荒れ地は未だ開拓されていない。 そこには苦労もあるけれど、チャンスもある、と。 のうちを手に入れる機会は、精霊様がくれたものです、と。 南部の諸王国は、新しい開拓民を求めていて、 そこには農奴制度はなくて、誰でも頑張って働きさえすれば 飢えないだけの実りが取れる。租税もかなり安いぞ、って」 冬寂王「……夢見がちな理想論を唱えるかと思えば 嫌になるほど冷静な現実を武器として持ち出すな」 勇者「あいつの教え子はみんなそうなるんだよなぁ」 356 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/11(金) 16 36 56.25 ID sQx9tPoP ――湾岸都市、商業区、大きな商業会館執務室 辣腕会計「委員、小麦の価格が多くの都市で +6ポイントまで上昇しました」 青年商人「市場動向はどのような印象ですか?」 辣腕会計「貴族や商人はむしろ好感触のようですね。 手持ちの小麦に余裕あるからでしょうか、 換金する動きも見て取れます。 農場主は警戒感を強めています。 彼らにとっては冬の間の食料ですからね。 しかし、金額によっては手放すものも少なくありません」 青年商人「そうですか」 辣腕会計「今のところ相場の上昇は例年とそう変わりなく ある意味織り込み済みですから激しい反応は出ていませんが」 青年商人「了解です。――次の手を打っておきましょう。 “生産物買い取り証書”の発行、ですね」 辣腕会計「聞き慣れない言葉です。なんですか?」 青年商人「今でっち上げましたからね。まぁ、聞いてください」 359 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/11(金) 16 41 25.91 ID sQx9tPoP 辣腕会計「黒板に板書してみます」カッカッ 青年商人「現在は冬です。冬小麦は秋に籾を蒔き、冬を越えて 初夏の収穫と云うことになりますね。 現在畑に籾はあるけれど、収穫はまだまだ……そうですね、 6ヶ月は先でしょう。 この先、畑にはどんなトラブルがあるか判らないが、順調に 行けば半年後には収穫が望める」 辣腕会計「ふむふむ。まぁ、常識ですね」 青年商人「しかし、何らかのトラブルの発生で小麦の生産が 減ってしまうと、地主や領主の収入は激減してしまう。 またはそうでなかった場合でも、天候に恵まれて大豊作に なってしまっえば小麦の相場が安くなってしまう」 辣腕会計「ふむ」 カッカッカッ 青年商人「そこで、“小麦引き渡し証書”の出番です。 つまり、“できあがった小麦を買い取る約束”です」 辣腕会計「それは、代金を先払いするという意味ですか?」 青年商人「そうです」 辣腕会計「地主や領主は手元にない麦でも売れるわけですね」 青年商人「そうなりますね。しかし、引き渡し時期…… 年明けの初夏には、契約した量の小麦は必ずそろえて貰う」 362 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/11(金) 16 47 34.92 ID sQx9tPoP 辣腕会計「つまり豊作であれば、領主達は、 “小麦の販売時と引き渡し時の差益”を得ることが出来る」 青年商人「引き渡し時に凶作などの理由で相場が上昇していれば わたし達は“相場より安い金額で小麦を手にする”ことが出来る」 辣腕会計「相場が上昇する読みはあるのですか?」 カリカリ 青年商人「中央聖王都と教会が異端告発を意図している以上 戦争が開始される可能性は高いでしょうね。 それに――仮に戦争が回避されても問題はないでしょう」 辣腕会計「なぜです?」 青年商人「戦争がなければ、その人口は減らない。 今まで足りなかったのは、資本と輸送力。 それから市場間の“膜”ですよ。 食べる口さえあれば、人為的な小麦の枯渇を作れる、 小麦相場が下がることはあり得ない」 辣腕会計「……」ごくっ 青年商人「もし仮に、大陸の小麦生産量がわたしの予想より 倍も大きければ『同盟』は破産するかもしれませんけどね」 辣腕会計「……なるほど。 人為的な相場形成の一つの手段にすると。 となると、この“小麦引き渡し証書”は 最終的には、貴族を縛る鎖となりますね」 青年商人「それも一つの過程。あり得る選択肢ですね」 364 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/11(金) 16 49 48.13 ID sQx9tPoP 辣腕会計「意図がよく判りませんね」 青年商人「領主や地主の判断を重くするんですよ。 来年の小麦相場のことを考えさせるのです。 “小麦引き渡し証書”がこちらの手にある限り それは云ってみれば、多量の小麦を借りているに等しい状況。 自領内の畑を損なうような動きは取れない。 また、初夏の収穫から、あらかじめ引き渡す分は 除外して考えなければならない」 辣腕会計「そうなりますね……」 青年商人「小麦の流通のイニシアチブを押さえるのが 目下の目的です。そこが第1段階のステップ。 初夏になっても小麦を自由に出来る量が少ない。 手元にはさほど残らない。 しかも小麦は高騰を続けていたら……。 なにも本当に高騰している必要はない。 “そうであったら困る”。 そう思って貰うだけで、その不安は利益になります。 証書を発行して、王国の金貨を渡しましょう。 なに、安い投資ですよ」 にこにこ 辣腕会計「……」ぞくっ 青年商人「中央貴族の皆さんには、 今しばらく長い冬を味わって貰おうじゃないですか。 楽しい舞踏会の始まりです。 この円舞曲。――買い、売り、交換する。 その響きが大陸を満たすまで」 368 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/11(金) 17 23 08.38 ID sQx9tPoP ――開門都市、自治議会、執務室 コンコンッ 東の砦将「開いてるぞー。どうぞー」 火竜公女「ごきげんいかがかや、砦将?」 東の砦将「可もなく不可もなく。 天気は良いが仕事は山積み。 やってもやっても終わらんな」 火竜公女「やってもやっても終わらないのであれば、 やらなくても良いのではないかや?」 東の砦将「おお! 尻尾のお嬢はいいこというなぁ!!」 副将「全然良くありませんっ!」 だむんっ 魔族豪商「ははは。相変わらずだのぅ」 火竜公女「これはこれは! 八鎧のお爺さまっ」 東の砦将「通商の用件で尋ねてきてくださったんだ」 火竜公女「それはお邪魔をしましたかや? 妾は席を外す故、お話などゆるりと」 魔族豪商「かまわんよ。話は簡単なもので、 ものの数分で片がついてしまったわ。 じつに剛胆な御仁じゃな」 369 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/11(金) 17 25 17.44 ID sQx9tPoP 東の砦将「いやいや。自治都市とは名ばかりの 張りぼて所帯ですからね。 商売に来てくれるってんならこんなにありがたい 事はないってやつですよ」 副将「ええ、本当に。ああ、公女様、加糊茶をどうぞ」 魔族豪商「はっはっは。こんな具合で、細かい書類も調べも 袖の下もな。何にもなかったんじゃよ」 火竜公女「それはもう。 この開門都市は自治委員会で運営されていますゆえ。 執行役とはいえ、賄賂なんてもらったら一発で首を 撥ねられてしまうのです。 ――お爺さま? この都市には何を商いにいらっ しゃったのですか?」 魔族豪商「なぁに、細々とした日常品じゃよ。 塩、鉄、馬鈴薯に、玉蜀黍。可可樹。綿花。 それに砂金を少々」 火竜公女「そんなことを云って、お爺さまの商会は いつでも大商いをなさるではありませぬか」 東の砦将「豪商どのは馬鈴薯を入れてくださることに なってな。塩を求めているらしいんだが……」 副将「いやはや」 魔族豪商「以前は極光島から潤沢な塩が送られてきた ものだがな。いや、あれは痛かった」 火竜公女「そうでありました……」 371 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/11(金) 17 27 48.78 ID sQx9tPoP 魔族豪商「いやいや、人間である砦将殿が居る前で、 詮方ないことを云ってしまった。老人の繰り言と 思って許されよ」 火竜公女「……」ちらり 東の砦将「いやいや。お気遣いなどなさらずに。 開き直るわけではありませんが、我らも沢山の 魔族の方を手に掛けた。我が部下も沢山散っていった。 争いもこの世の習いの一つですから……。 今は明日を生きることが出来ることを感謝したいと。 ――そう思います」 魔族豪商「若いのに、肝が据わっておるの」 東の砦将「塩は何とかしてみましょう」 魔族豪商「ではよろしく頼みましたぞ。 いや、茶を馳走になりましたな」 東の砦将「副将、お送りして差し上げてくれ」 副将「はっ!」 ザッザッザッ。ガチャン 東の砦将「存在感のある爺さんだな」 火竜公女「それは、お爺さまは魔族でも重鎮ですゆえ。 ああ見えて、昔は相当強面だったとの話」 372 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/11(金) 17 30 50.81 ID sQx9tPoP 東の砦将「さぁて、話がある」 火竜公女「妾もですわ」 東の砦将「先にそちらを聞きましょう」 火竜公女「気になることがありまして。 ……砦将どのは蒼魔族をご存じかや?」 東の砦将「蒼魔族ですか? 戦ったことはあるが、 あんまり詳しくはないな。そもそも、あのころは 魔族の見分けもついちゃ居なかった」 火竜公女「蒼魔族とは蒼い肌をもつ魔神の末裔たる魔族。 魔界四氏族の一つにして、勢力も強い一族なのです。 中には小型の者から大型の者まで、様々な亜種族を 含みますが、総じて魔力、戦闘能力に秀でております」 東の砦将「ふむ……」 火竜公女「我ら竜族、妖精族などとはあまり交わろうとは しませぬね。我らもまた他族と交わる気風を持ちませぬが。 ――蒼魔族は歴代のうち4名の魔王を輩出した、大氏族と いえるでしょう。そして、人間界を欲する氏族でもあり まする」 東の砦将「どうもきな臭い氏族だな」 火竜公女「その蒼魔族を最近、この都市で見かけると……」 東の砦将「……」 374 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/11(金) 17 32 10.76 ID sQx9tPoP 火竜公女「妾も直接確認したわけではないが、 そのような話が出ております。 開門都市はいまや人間族と魔族が混交した珍しき地。 もちろん蒼魔族が住まって悪いわけではないのです。が」 東の砦将「気になる、と」 火竜公女 こくり 東の砦将「判った、配下を出そう。 いや、魔族の方に頼んだ方が目立たないかな? とにかく、手を打ってみますよ。お任せあれ」 火竜公女「感謝いたします。……して、そちらの用件は?」 東の砦将「あー。んー。さっきのな」 火竜公女「?」 東の砦将「豪商どのの求めているのは塩なんだ」 火竜公女「はい、そのようで」 東の砦将「でも、この都市にも今そこまでの塩の備蓄はない」 火竜公女「はぁ……」 東の砦将「調達してきてくれないか?」 火竜公女「それはそれで無体な要求。塩の需要はどこでも 高く、随分高価です。我が一族の領内にも塩山はひとつ しかないのですよ?」 東の砦将「いや、まぁ……。行く場所はあるんだ」 火竜公女「?」 東の砦将「人間界だよ」 386 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/11(金) 18 00 02.88 ID sQx9tPoP ――思い出の庭、魔王の回想 魔王「……ん。……うぬぬ! うわぁっ!?」 きょろきょろ 魔王「もうこんな時間か。……おわっ。な、なんだ。 背中が痛いぞ。と云うか、全身が痛む……。 な、なぜだ」 メイド長「“こんな時間か”、が二日ぶりだからですよ」 魔王「おわっ」 メイド長「いい加減にしないと身体をこわしますよ」 魔王「うーん。しかし、面白いのだ、止められん」 メイド長「気持ちはわかりますが」 魔王「そちらはどうなんだ?」 メイド長「わたしの専門は実技を伴いますからね。 身体を動かして技術を身につける以上、 そこまで本や資料を読みあさって、 筋が硬くなるなんて事はないんですよ」 魔王「そういえばそうか」 メイド長「お茶でも入れましょうか?」 魔王「なにも気を遣わなくても良いのに」 メイド長「あなたには恩がありますからね」 魔王「あれは行きがかり上だ」 387 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/11(金) 18 01 10.10 ID sQx9tPoP メイド長「だとしても奴隷だったわたしには救いでした」 魔王「……」 メイド長「いえ、別にそれだけが理由ではありません。 そんなことより目下重要なことがあるんです」 魔王「なんだ? 新しい研究か?」 メイド長「ええ、お茶を出すときの新しい作法です」 魔王「何だ、作法に新しいだの古いだの、いらないだろうに」 メイド長「必要なものだけがある世界なんて 味気ないじゃありませんか。これも彩りです。 そもそも“メイド道”は彩り重視なんですよ」 魔王「お茶がもらえるならありがたくもらうけど」 メイド長「承知しました、お嬢様」 魔王「お嬢様ぁ?」 メイド長「演出の一環ですよ。しばらくお付き合いください」 とっとっとっ 魔王「しかし、我が一族は奇人変人ばかりだが…… というか奇人変人が我が一族になるわけだが、 あそこまでの変わり者もなかなかいないなぁ。 部屋が片づいて良いけど」 魔王「……」 388 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/11(金) 18 03 26.08 ID sQx9tPoP 魔王「――ファンダメンタルズ、最適化、パレート ――債権、内需、所得、産業、成長率、空洞化」 魔王「興味は尽きないな。これはおそらく、価値観か」 魔王「名前、が本体なのだろうな。 概念に名前――名詞をつけることによって、 新しい価値観が発見/創造される。 この場合発見と創造は同じ行為で、その瞬間に世界が 拡張される。 新しい視座を得て、今までの全ての事象は再評価されるわけだ。 つまり、視座の数は、世界に対する係数。 視座を多く持つほどに多くの世界を見ることが叶う。 それが知識の、学習の意味。 我が一族の、存在意義。 我らは概念に名前をつける。 新しい概念で世界を拡張する。 概念と概念は時に出会い、融合して、生み出した我々にも 思いつかなかったような変化を遂げることがある。 それは、我らが手にする実り。 世界の、果実。 理論面においてはl=n(n-1)/2を取るのかな。 素晴らしいな。……知ることは素晴らしい。 けれど、それ以上にこの世界は素晴らしいな。 この世界には、この世界を加速度的に拡張する存在が 沢山いるんだ。 それは魔族だけじゃなくて……」 389 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/11(金) 18 05 54.96 ID sQx9tPoP 魔王「……“魂持つ者”」 魔王「そう呼べたら素敵だな。 あの向こうには、どれほど豊かな世界が広がっているんだろう? 二つの世界が出会ったら、どれだけの組み合わせ爆発が 起こるんだろう? 概念と概念が融合し、どんなに 素晴らしい世界を見せてくれるんだろう?」 魔王「人間、世界か……。 ただの魔物の一匹であるわたしには、触れ得ないだろうけれど。 城ってどんなものなんだろうな。 村って云うのは、魔族のそれといっしょなのかな。 なかなかにもどかしいな。 映像資料がもうちょっと充実してればよいのだろうが……」 魔王「我らも、物も、貨幣も流れる。 決して留まりたるを知らない。 時も流れる。 でも、現われたものは、けして消えない。 消えたかに見えて、必ずや残る。 この瀬良の図書館のように。 いくつも、いくつも、数千数億の世界の記録が 歌っているのが聞こえる。 何でみんなには聞こえないのかな?」 魔王「こんなにも見つけて欲しいと 誇らしげに、高らかに、歌っているのに。 わたしの想いも、 やはり誰にも……届かないのかな」 392 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/11(金) 18 07 46.47 ID sQx9tPoP メイド長「お嬢様、お茶が入りました」 魔王「ん? 何だ、そんなところに立って」 メイド長「……新しい作法でして」 魔王「ふむ」 メイド長「きゃー」 魔王「きゃー?」 メイド長「あー、ちょっと、ちょっと。わわわ、きゃふうん」 魔王「何を言っているんだ?」 メイド長「ここで素早くカップを投げつける」 魔王「へ?」 ばしゃぁ! 魔王「熱っ! 熱っ! 熱いではないかっ!!」 メイド長「だ、だいじょうぶですかぁ。きゃふーん」 魔王「なんで雑巾っ、こっ、こらぁ!!」 メイド長「新しい作法でございます」すちゃ 魔王「……」 メイド長「まったく知識は素晴らしい。 研鑽に果てはございません」きらきらっ 魔王「どんな資料を参照しているのだっ!」 ページトップへ <前4-1へ|次4-3へ>
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<前7-3へ|次8-2へ> 魔王「この我のものとなれ、勇者よ」勇者「断る!」8-1 35 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/26(土) 21 56 21.35 ID pLtZgbkP ――聖王都、場末の宿屋 奏楽子弟「やぁ、当たって砕けたねぇ」 メイド姉「そうですねぇ」 奏楽子弟「でも、教会ってこういうものなの?」 メイド姉「え?」 奏楽子弟「いや、この大陸も今まであちこち旅してきたけれど 教会ってどこにもある割には、結構いろいろだよね」 メイド姉「ああ、それはそうですね」 奏楽子弟「光の精霊だっけ? 神だっけ? 同じ者を信じているのに、結構バラエティがあるなって」 メイド姉「同じ教えを根にしていても、 その解釈や実践方法において差があって、 だんだんと色んな流れに分かれていったんですよ。 それらは修道院、修道会と云った形で表面化しています。 大まかなところでは一緒ですけれど、細かい部分では かなり違いがありますね。 たとえば聖日ごとのミサを重要視する修道会もあれば、 地域での助け合いを重視する修道会もあります。 教会って云うと信仰の場のようですけれど、 実際には、学問や医療や人々の生活の難問を 解決する、公共の場所のような意味合いもありますからね」 奏楽子弟「それでみんな教会を大事にしてるんだ」 メイド姉「そうですね」 奏楽子弟「でも、なんか。……ここの教会は、大きい割にはね」 36 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/26(土) 21 58 41.52 ID pLtZgbkP メイド姉「それは、まぁ。ある意味仕方ないかも知れませんね」 奏楽子弟「そうなの?」 メイド姉「聖光教会。中央教会ともいいますが、 これはもう非常に強力なのです。 普通、ただ単純に“教会”といえば、 この宗派を指すぐらいに最大派閥なんですよ。 この大陸にいる光の精霊信者の半分以上は、 この中央教会の影響下にあると思います。 実際の人々は、色んな国や貴族の領地に暮らしていますけれど その殆どが教会にも所属しているわけですから 彼らの生活の全てを補佐していたり、影響力を持っています。 ここまで大きくなると、国であっても無視できないし、 むしろ気にしながらでないと、民を治めることなんて出来ません。 教会が一言“背教者”と名指しにしただけで、 自分の領地の領民がその日のうちに貴族を血祭りに上げたり しかねませんからね」 奏楽子弟「結構物騒なんだね」 メイド姉「ええ、そんなわけで、教会。 とくに聖光教会は強大な権力を持っています。 その権力が正しく働けば、横暴な貴族や王族から 民を護る盾のようにもなるでしょうけれど 現実には、貴族や王族と癒着して、農奴や開拓者を 苦しめてしまうこともありますね。 また、そうやって大きな力をもっていますし、 知識や技術などの集積もしていますから、 ……んー。自分たちを優れたものだと考える 聖職者の方もいらっしゃるようなのです」 奏楽子弟「それでああいう横柄な態度になるわけだ」 メイド姉「そうですね……」 37 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/26(土) 21 59 49.46 ID pLtZgbkP 奏楽子弟「どうしよっか。 あの態度は、ちょっとやそっと粘ったくらいで どうにかなる感じじゃなかったね」 メイド姉「そうですね。わたしもちょっと甘く見ていました」 奏楽子弟「うん、びびった」 メイド姉「すごいですね」 奏楽子弟「すンごいね」 メイド姉「ええ」こくり 奏楽子弟「金ぴかじゃない」 メイド姉「お城よりも豪華でしたよ」 奏楽子弟「お城なんて行ったことあるの?」 メイド姉「あ、いや。見た目だけ」 奏楽子弟「彫刻のない柱なんて無かったね」 メイド姉「目がくらくらしますよ。どれだけ広いんですか」 奏楽子弟「ざっと見た感じ、短い辺が千歩ってとこだったね。 本体は石造、漆喰、伽藍はフレスコ、彫刻した柱は総大理石。 金箔に象眼。絵画に植樹、人工庭園。 あれは当代一の建築家に芸術家に技術者動員しても20年がかりの 仕事だね!」 メイド姉「詳しいんですね! 詩人さん」 奏楽子弟「ま。腐れ縁に土木野郎がいるからねっ」 メイド姉「わたしはもっと、広いだけで質素な、煉瓦造りの 大きな集会場みたいなものを想像しちゃっていましたよ」 奏楽子弟「わたしも。そういう教会、多かったしね」 メイド姉「ええ」 38 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/26(土) 22 02 48.68 ID pLtZgbkP 奏楽子弟「どうしよっか」 メイド姉「仕方ありませんね」 奏楽子弟「やっぱり諦めるしかないよねぇ。ここまで来たのになぁ」 メイド姉「潜入しましょう」 奏楽子弟「え?」 メイド姉「こっそり入りましょう。黒っぽい服あったかな」 奏楽子弟「ええっ!?」 メイド姉「はい?」 奏楽子弟「ほんとにっ!?」 メイド姉「はい」 奏楽子弟「何でそう思い切りが良いの、メイド姉さんはっ」 メイド姉「なんででしょう……。勇者様の悪影響なのかな」 奏楽子弟「?」 メイド姉「いえ、身近に行動力が突出した人が多くて」 奏楽子弟「もうちょっと、慎重にさ」 メイド姉「ええ、慎重に潜入計画を立てないといけないですよね」 奏楽子弟「そう。こういう事には準備がね。 できれば簡単な内部見取り図とか、巡回の把握とか、 目標地点の確認とかもしないと」 メイド姉「しばらく路銀を稼ぎながら情報収集ですね。 ありがとうございます。詩人さんはやはり頼りになりますね」 奏楽子弟「……あれ? いつの間にか潜入することになってる?」 メイド姉「なんだか胸騒ぎがするんです」 奏楽子弟「そう?」 メイド姉「空気がざわざわしているような……」 42 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/26(土) 22 20 54.42 ID pLtZgbkP ――白夜国首都、白亜の凍結宮 蒼魔の刻印王「ふむ。それで引き上げてきたか」 蒼魔上級将軍「どのような罰をお与えになりますか?」 蒼魔の刻印王「いいやかまわん。 どちらにしろ騎馬隊の任務は偵察だったのだ。 鉄の国が峠道を一本つぶしてでも交戦を避けた。 その情報にも意味がある。 多少遠回りにはなるが、より太い街道が何本かあっただろう?」 蒼魔上級将軍「おいっ。ここいらの地図を持ってこい」 蒼魔軍兵士「はっ!」 ばさぁっ! 蒼魔の刻印王「これは、山か。そして森林だな。 この地方の森林は深いのか?」 捕虜の文官「……ぐっ。深い……。原生林だ」 蒼魔上級将軍「軍の動きは著しく制限を受けますな」 蒼魔軍兵士「恐れながら、刻印王様のお力で、敵軍ごと 焼き払うわけには行かぬのでしょうか?」 蒼魔の刻印王「もちろん出来るとも。 お前が勇者の相手をしてくれるのならば 喜んでそうしよう」 蒼魔軍兵士「しっ、失礼を申し上げましたっ!」 蒼魔上級将軍「――と、なりますと」 44 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/26(土) 22 25 10.55 ID pLtZgbkP 蒼魔の刻印王「この街道を通り、蒼魔騎兵部隊および 歩兵部隊を進める。 重装蒼魔兵部隊を中核に据えるとしてどの程度かかる?」 蒼魔上級将軍「10日から12日、と云うところでしょうか。 こちらの世界は地下と比べて山脈が険しいようですが、 街路の状況は悪くありませんな」 蒼魔の刻印王「騎行部隊を編制せよ。 周辺の地形を探索させるのだ。 人間の民間人に出会った場合は殺せ。 足跡を残すのも面倒ごとになる」 蒼魔上級将軍「決戦は、この平野ですな」 蒼魔の刻印王「蔓穂ヶ原か。――おい、蔓穂とは何なのだ」 蒼魔上級将軍「お答えせんか」 ビシィッ! 捕虜の文官「……蔓穂は、草花だ。白から濃い紫の。 花が咲く……その平野は……開発の手が着いていない……」 蒼魔の刻印王「紫か」 蒼魔上級将軍「吉兆ですな。我らが蒼魔の色」 蒼魔の刻印王「我は勇者との戦いに備えて瞑想に入らねばならぬ」 蒼魔上級将軍「はっ!」 蒼魔の刻印王「後は判っておろうな。この国の掌握に 兵は2000も残せば十分であろう。督戦隊を組織せよ。 例の策を使うのだ」 蒼魔上級将軍「はっ。仰せのままにっ!」 50 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/26(土) 23 01 16.04 ID pLtZgbkP ――――地下世界(魔界)、鵬水湖の畔、仮設会議場 銀虎公「これはっ」がたっ 碧鋼大将「ご回復ですかっ」 鬼呼の姫巫女「ご回復おめでとうございますな」にやっ 紋様の長「ご本復誠に喜ばしい限り」 魔王「え、あ。いや……。その、世話をかけた」 メイド長「さ、まおー様。座ってください」 銀虎公「よっし、魔王殿もこれで回復だ」 碧鋼大将「うむ」 火竜大公「これで肩の荷が下りますかな」ぼうっ 魔王「まず最初にこの場にいる知恵深き長がたに われ三十四代魔王“紅玉の瞳”は深くお礼申し上げる。 我が不徳から長き間そのつとめを離れたことを 申し訳なく思うと共に、その間のつとめを我に代わって 果たしてくれた長がたの深い知恵と行動を嬉しく思う。 我のいない間の長がたの問題認識とその決断に 至るまでの経緯、重ねた議論については、 これなる黒騎士にして勇者から聞いている。 長がたの下した決断で、 我のほうから不服や不足がある点は一つもない。 どれも熟慮と配慮ある決断であったと考える。 銀虎公、碧鋼大将、妖精女王、衛門の長、 鬼呼の姫巫女、紋様の長、巨人伯。 深くお礼申し上げる。 特に火竜大公には意見のとりまとめをして頂いた。 見事であったというほかない」 51 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/26(土) 23 02 15.25 ID pLtZgbkP 銀虎公「いや、そんな頭を下げられるような」 鬼呼の姫巫女「我らは、為すべき所を為したまで」 巨人伯「そうだ……まおう……治って良かった」 火竜大公「はははっ。魔王殿にそう言われて、 我ら一同、胸のわだかまりも労苦も解けて 流れていくようですな」 妖精女王「はいっ」 東の砦将「怪我の具合を聞いても良いかい?」 メイド長「代わってお答えします。 包帯のほうも取れまして、食事の制限も通常に戻っています。 予後治療としてあと一ヶ月程度の治癒術を予定していますが、 戦闘などはともかく、ごく普通の政務であれば問題ないと 考えております」 魔王「と、いうことだ」 メイド長 ぺこり 銀虎公「で、あるならばもはや何の問題もないな」 碧鋼大将「うむ」 火竜大公「魔王殿、ではこの会議はその役目を終え 魔王殿に全権をお返しする、と云うことで宜しいか?」 魔王「いや、それは保留としよう。 現在は問題の規模が大きくなり、 事件と事件の間の距離が開きすぎている」 妖精女王「蒼魔族、ですか」 52 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/26(土) 23 05 20.71 ID pLtZgbkP 魔王「今回の事件に対応するためには、 この会議の力がまだ必要だと思えるのだ」 火竜大公「……ふむ」 紋様の長「魔王殿は今回の蒼魔族の人間界侵攻、 どのような対応をすべきとお考えか?」 魔王「そうだな。ふむ……。 衛門の長よ。あなたは人間界、魔界の事情の両方に 明るかろう。またその経験から軍事にも秀でておる。 現在の状況について思うところを聞かせてくれ」 東の砦将「ふぅむ」 ぽりぽり 副官「しっかりしてくださいね」 東の砦将「まず、最近色々聞きかじったところに寄れば、 蒼魔族の領地には約16万人の蒼魔族が取り残されたようだな。 キツイ言い方になりますが、こいつらは捨てられた。 ……そういう事になるんだろう」 碧鋼大将「哀れな。捨てられたる哀しみも知らず」 鬼呼の姫巫女「そうであろうな」 紋様の長「ふぅむ」 妖精女王「あくまで隠密裏にですが偵察した結果、 多くの食料は軍が糧食として徴収していったようですね。 また砂金や軍需物資の持ち出しも確認されています」 鬼呼の姫巫女「蒼魔族の領土内には鉱山も多く、 中には魔界最大の金山もあったはず」 妖精女王「どれくらいの持ち出しが為されたかは、 偵察のみではとても把握できませんが」 53 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/26(土) 23 06 58.65 ID pLtZgbkP 東の砦将「次に蒼魔族の軍部の行動についてだ。 これは明白だろうな。 手詰まりになる前に討って出たということだろう。 現状魔界の全軍を相手に押し切るのは難しい。 ……まぁ、おそらく勇者の存在も効いたんでしょうな。 あの場で魔王を殺し自分が即位してしまえば 逆らう族長は粛正して恐怖政治にて魔界を支配できる 可能性もあったと云える。 その目論見が外れて、しかも蒼魔族以外が団結してしまった。 これがたとえば獣人族や機怪族を巻き込んで、 魔界を二分する大戦にでも出来ていれば、 まだいろいろやりようもあったんだろうが、 この状況になってしまった以上、戦ったところで、 早い遅いの差はあれじり貧だ。 現にこの会議だって、どのような決着にするかについては 考えていたが、負けた場合の事なんて考えてはいない。 蒼魔族の命運は尽きた、その前提での話だったわけだ」 銀虎公 こくり 碧鋼大将「人間界に討って出るとは……」 東の砦将「そのとおり。 蒼魔族そこで人間界に討って出た。 結果から考えると、これはなかなか悪い手ではない。 もちろん蒼魔族にとっては、と云う意味だがな。 小耳にはさんだ話じゃ、蒼魔族は地上に侵攻早々、 白夜国という国の都を落として掌握したって聞く」 火竜大公「一国を?」 妖精女王「そこまでの力を備えていたのですか」 54 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/26(土) 23 08 32.87 ID pLtZgbkP 東の砦将「ああ、南部諸王国と呼ばれた4国のうち一つ。 様々な理由で立ち後れ、周囲に戦争を仕掛けては 返り討ちに遭い、国力も兵力も衰えていた国がある。 それが白夜国だ。 そんな国に運悪く蒼魔族が現われた。 城は一日も持たなかったそうだ。 結果として、蒼魔は地上に足がかりを作ったことになる。 地上では、魔界とは違った形だが、戦争の気配がってな。 南部の王国と中央が争っている。 正直に言えば、今は魔族の相手などはしていたくはないはず。 その隙を狙って、一番落としやすそうな所を落とした。 その上そう言う案配の地上だもんだから、 全員が一致協力して、この蒼魔族を撃つかどうかは判らない。 何せ蒼魔と戦い始めた瞬間、背後から同じ人間に 攻められるかも知れないわけだからな」 勇者「……」 魔王「……」 東の砦将「現状の把握はこんな所だろう。 またこのさきについて多少考えるならば、 おそらく蒼魔族は地上で版図を広げるつもりなのだろう。 魔界の領土を捨てた以上それ以外に残された道はない。 いずれ魔界へと帰るにしろ、その時は、 何らかの事態の変遷を経て、 魔界と自分たちの戦力差が縮まった時となる」 59 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/26(土) 23 38 47.39 ID pLtZgbkP 勇者「正確な分析だろうな」 魔王「考えなければならないのは、内通だな」 紋様の長「内通?」 銀虎公「どういう事だ?」 東の砦将「あまりにも地上の情報に通じている、ってことだ。 白夜国は、度重なる失策で疲弊もしていたし、 何と言えばいいかな。 国家、こちらで云うところの氏族か。 その組織としての輪郭が、あまりにもぼやけていた。 隅々まで統制は行き渡っていなかったし なんというか、負け犬のような根性になっていたんだろうな。 そこを鮮やかにつかれた。奇襲としては完璧だ。 だが、魔界の氏族に、そのような地上の知識や機微が どこまであるのか? また狙いをさだめたとしても、 2万からの軍を動かすとなれば地理や気候などを 無視して上手く行くものではない」 火竜大公「人間の中に、蒼魔族に手を貸したものがいる、と?」 東の砦将「そうだ」 魔王「まぁ、そのような内通者などどこにでもいる。 ここにいる族長の方々も程度の差こそあれ、 人間界の事情は何くれとなく気にかけているであろう? 今回の内通とはその規模ではなく、 もし、地上界のどこかの国家が、蒼魔族を援軍として 呼び込んだのだとしたら……。 そこが懸念だ」 60 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/26(土) 23 41 01.01 ID pLtZgbkP 銀虎公「地上の争いか……」 火竜大公「ふぅむ」 魔王「わたしの把握している情報だと、その可能性が もっとも高そうなのが、白夜国自身だ」 妖精女王「どういうことですか?」 魔王「つまりその場合は、人間界での自分たちの領土や 権益の回復を目指し魔界と手を結ぼうとしたが 逆に蒼魔に隙を突かれて自滅した。という形だな」 銀虎公「ふぅむ。なんていうか、そこまで落ちぶれた 氏族だったのか? 白夜族というのは?」 東の砦将「あー。そうかもなぁ」 魔王「このパターンは哀れな話ではあるが ある意味自業自得ではあるし、 この先の問題点は少ないと云えよう。 つまり、蒼魔族は白夜国を滅ぼしたことで、 人間界での案内人を失ったわけだからな」 鬼呼の姫巫女「ふむ」 魔王「わたしが恐れているのは、もう一つの想定だ。 人間界での戦は、単純化すれば『南部』と『中央』との 戦いだと云える。その片方が蒼魔族を招いた場合だな」 銀虎公「そいつらはどんな理由で争っているんだ?」 勇者「はじめはそこまで争っていなかったんだ。 だが『南部』の国は魔界との戦いの最前線だった。 それにたいして、『中央』の国々は後方の安全な場所から 戦争に賛成していたんだな。この辺の意識の違いから だんだんと溝が深まっていった」 61 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/26(土) 23 42 25.97 ID pLtZgbkP 魔王「だが今となってはそう言った始まりの原因よりも、 様々な点で国としての方針が合わなくなって しまったことが大きいな。 『中央』の国々は、魔界との全面戦争を望んでいる。 しかし、それには大空洞に近い『南部』の国を従えるか 制圧しなければならない。そもそも『中央』の国々は プライドが高く、『南部』が従うのを望んでいる。 しかし、経済や交易などで力をつけた『南部』の発言力は だんだんと『中央』の制御から離れていった。 現在決定的な意見の相違は二点だ。 『南部』は奴隷を解放したが、『中央』は奴隷を認めている。 『南部』は魔界との停戦を模索しているが 『中央』は魔界との全面戦争、少なくとも遠征を意図している」 銀虎公「面倒だな」 火竜大公「蓋を開けてみれば、より複雑なのであろう」 魔王「それはどこの世界でも一緒だ。多くの人が生きていれば 意見の違いもある。一筋縄では行かぬ」 鬼呼の姫巫女「しかし、そうなると、 蒼魔は人間界にとっても大きな転機になりうるな」 魔王「その通りだ」 銀虎公「人間が最初に魔界に攻め込んだんだ。 人間全部が魔界の富に釣られているって事じゃないのか?」 東の砦将「富の部分は否定しないがね。 まぁ、この件は教会の影響力も大きかった」 62 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/26(土) 23 43 40.44 ID pLtZgbkP 鬼呼の姫巫女「教会とは、神殿の仲間であろう?」 東の砦将「そうだな。魔界の神殿組織よりも、 地上世界の教会のほうがずっと組織として整備されているし、 発言力も強大だが、根底は似ている。 教会は国家、つまり氏族の枠に縛られない。 実際問題、人間界ではただ一人の神が信じられているんだ」 巨人伯「一人!?」 勇者「ああ、そうだ。光の精霊という」 魔王「――炎の娘だ」 東の砦将「それで、まぁ、その教会が宣言しちまったのさ。 “魔界は悪だ、殺すべきだ!”ってな。 一応、誤解の無いように言っておくが 魔界に住む魔物の多くは、地上世界の動物よりもずっと 戦闘力が高くて危険なんだ。 その性質は地上に出ると余計に強化される。 つまり凶暴化するんだな」 鬼呼の姫巫女「魔物と魔族を一緒にするでない」 東の砦将「その意見は判るが、 そこは頭の悪い野蛮人だと思って我慢してくれ。 ゲートが開放された時に出た被害者や拡散した魔物、 それから教会の伝えた報告により、地上の大部分の人間は 魔界の実態も知らないままに恐怖した。それも事実なんだ」 紋様の長「ふむ……」 63 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/26(土) 23 45 06.72 ID pLtZgbkP 魔王「そんな状況下で、蒼魔族が地上で暴れた場合 魔界と人間界の間の関係に決定的な影響を 及ぼしてしまう可能性が高い」 碧鋼大将「人間界が、再び魔界侵攻をすると?」 東の砦将「……」 魔王「魔界侵攻そのものは問題ではない。 いや、それはそれで憂慮すべき事だが、一つの結果だ。 むしろ問題は、人間界に住む人々に大規模に魔界の 恐怖がきざまれてしまい、もはや共存の可能性が 無くなってしまうことだ」 銀虎公「……ぐるるるる」 碧鋼大将「……」 妖精女王「それは困ります」 東の砦将「そうだなぁ」 魔王「ここにいる長の方々 全てが共存に賛成な訳ではないのも判っている。 しかし、考えてみて欲しい。 地上と地下、二つの領域があったのだ。 人間界の戦力が我らよりも小さい可能性はもちろんある。 だが同様に我らと等しい可能性も、我らよりも大きい 可能性もあるのだ。 そうだろう? 相手が我らよりも劣っているなどと 判断できる理由はどこにもないのだ。 魔王としてこれだけは断言する。 勝てたとしても、負けたとしてもその戦争は 最低でも100年は続くだろう」 65 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/26(土) 23 47 34.94 ID pLtZgbkP 紋様の長「逆に聞きますが、 その全面戦争を回避できる策はありますか?」 魔王「確実な策はない」 妖精女王「ないんですか……」 東の砦将「……」 魔王「実際問題、我らは違いすぎる。 肌の色も、姿形も。生活習慣や信じる神、食べている物。 服装や、社会規範から、尊い思う礼節まで。 戦争にならないほうが不思議だ。 自然のままであるのならば、いずれ争いになるだろう」 碧鋼大将「……」 銀虎公「……」ぎりっ 魔王「だがしかし、わたしはやはり回避できるのならば 戦争は回避すべきだと考える。 別に人間族を恐れているからではない。 戦えば、勝つ。勝つための努力をする。 それが魔王だからな。 ――しかし、それでいいのか? 長老方。 わたしには他にも出来る何かがあるような気がする」 勇者「銀虎公」 メイド長「?」 勇者「何か言いたいことがあるんじゃないのか? 云っちまった方がいいと思うぜ。会議なんだから」 66 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/26(土) 23 49 41.54 ID pLtZgbkP 銀虎公「我が一族は、戦闘の一族だ。 だから……人間と戦うのならば、ためらいはない。 100年続くと云ったが、別に悪くないではないか? 100年が1000年でも同じ事。 栄誉と酒の中、雄々しく戦えばよい。 だが、しかし。 その角笛を蒼魔族が吹くのは、釈然とせぬ。 今の話を聞いていると、我らはどうも……。 蒼魔族に騙されて人間と戦うようではないか」 火竜大公「ふぅむ、そうとも云えるな」 東の砦将「……ふむ」 銀虎公「我が獣牙の一族は、 戦う順番としては蒼魔が先だ。そう言いたい」 妖精女王「だがそうなると人間界に攻め込むことに」 碧鋼大将「余計に事態を悪化させるではないか」 東の砦将「いーや、その意見は漢の意見だ! 俺たち衛門一族は、虎の大将に乗っかるぜっ。 叩くのなら、蒼魔族が先だろうよ。 そいつが筋ってもんだ。なぁ! 大将!」 副官「将軍っ!?」 銀虎公「おおっ! 衛門の長もそう言ってくれるかっ!!」 紋様の長「人間世界と100年の全面戦争を始めるおつもりかっ!?」 巨人伯「人間……こわい……」 銀虎公「だが、これは義の問題だっ。 逆に云えば、我らが魔界の裏切り者が人間世界で暴れているのだ。 それを叩くに何の遠慮を必要とするっ」 73 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/27(日) 00 05 56.75 ID 34eUyEEP 魔王「鬼呼の姫、竜の長。お二人の意見は如何に?」 火竜大公 ちらっ 鬼呼の姫巫女 こくり 火竜大公「我ら二人は、魔王殿に賛意を投じます」 鬼呼の姫巫女「無法を討つ。この理は人界でも通用すると考える。 もしそれさえ通じぬとあらば、もはや人間と 我ら魔族は判り合うことはないのだ。戦争も致し方あるまい」 紋様の長「巫女殿っ! ご老公っ!」 魔王「長がたよ。何事もせずに手をこまねいていても、 自体は刻一刻と悪化を続けているのだ。 で、あれば銀虎公に賭けてみるのも一つの方策であろう?」 碧鋼大将「……仕方あるまい」 銀虎公「魔王殿っ! それではっ!?」 魔王「長がたに異存なくば、魔王軍初の遠征とする」 火竜大公「そして初の親征となりますな」 魔王「だがしかし、遠征としてはあまりにも遠い地ゆえ 大軍を率いて行くわけにも行かぬ。銀虎公っ」 銀虎公「はっ!」がばっ 魔王「精鋭八千を率いて我が傍らで右軍将軍として 我が意に従い指揮を行え」 銀虎公「ははぁっ!!」 76 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/27(日) 00 08 03.60 ID 34eUyEEP 魔王「碧鋼大将」 碧鋼大将「はっ」 魔王「難しいことを頼むが、長ならば必ずや やり遂げるものと思う。 旧蒼魔族領地に入り、その金山、鉱山、工房を封鎖し凍結せよ。 また、その領民を掌握し、安堵せしめよ。 これより旧蒼魔族領地の鉱物資源の管理は 機怪一族に任せる。 機怪一族がその異形ゆえ迫害されてきた歴史は知っている。 その一族の悲しみを他者に味合わせてはならぬ。 長と軍に見捨てられた蒼魔族を救えるのは 同じ悲しみを知る長の一族だけだ。頼む」 碧鋼大将「承りましたっ。必ずや」 魔王「巨人伯、鬼呼の姫巫女、紋様の長」 巨人伯・鬼呼の姫巫女・紋様の長「はっ」 魔王「長がたの下した決断をわたしは重んじたい。 この魔界を栄えさせるためには、三氏族の力がどうしても必要だ。 世界が戦になろうと平和になろうと、街道と開墾は 必ずやその力になる。建設に総力を挙げてくれ」 鬼呼の姫巫女「はい、必ずや」 紋様の長「承りましてございます」 巨人伯「……まかせろ」 79 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/27(日) 00 09 28.26 ID 34eUyEEP 魔王「火竜大公」 火竜大公「判っております」 魔王「うむ。この会議が魔界の束ねとなろう。 わたしが人間界に行っても、代わらず皆を導いてくれ」 火竜大公「この老骨が砕けぬ限りはお約束いたしましょう」 魔王「砦将殿。人間の世界が舞台となる。 開門都市に兵の蓄えが少ないことは承知だ。 好きなだけの手勢を率いてわが左軍将軍となり その知謀を貸してくれ」 東の砦将「判った。まかしとけや」 妖精女王「あ、あの……わが一族は?」 魔王「妖精の女王よ」にこっ 妖精女王「はいっ!」 魔王「あなたが今回の遠征の要だ」 妖精女王「とは?」 魔王「わたし達は蒼魔族を討ちに行く。 そのためには人間世界、つまりは人間の国々を 通り抜けなければならないだろう。魔界でも同じだが 武装した集団が氏族の領土に侵入してきたら戦争と 取られても仕方ない」 妖精女王「はい……」 魔王「女王には特使として、 人間の国々からの許可を取って頂きたい」 92 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/27(日) 00 26 29.16 ID 34eUyEEP ――聖王国、深夜の大教会、聖堂地下 コツン、コツン、コツン 奏楽子弟「ん。……いいよ」 メイド姉「はい」 コツン、コツン 奏楽子弟「この匂いは……」 メイド姉「古くなった羊皮紙ですね」 奏楽子弟「ここはどうやら、あまり人の出入りがないみたい」 メイド姉「今は有り難いです」 コツン、コツン 奏楽子弟「……しっ」 メイド姉「っ」 しーん 奏楽子弟「大丈夫。あけるよ?」 メイド姉 こくり ぎぃいいぃ…… 奏楽子弟「あ……油くらい差そうよ。心臓止まるかとおもったよ」 メイド姉「まったく」 奏楽子弟「どっちかな」 メイド姉「多分、下です」 94 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/27(日) 00 27 53.40 ID 34eUyEEP コツン、コツン、コツン 奏楽子弟「ここが書庫だね」 メイド姉「はい」 奏楽子弟「どうする?」 メイド姉「え?」 奏楽子弟「ここまで来たんだ。『聖骸』は後回しでもいいや。 何か探したいものがあるんでしょう? 付き合うよ」 メイド姉「では、この間の物語を」 奏楽子弟「あれ?」 メイド姉「ここになら、もっと詳細な物があると思うんです」 奏楽子弟「ふむ。わかった」 メイド姉「ここに明かりを置きますね」 コトっ 奏楽子弟「朝までは……」 メイド姉「あと6時間ほど」 ペラッ。しゅるん…… 奏楽子弟「時間はないね」 メイド姉「はい」 しゅるるん……ぺら…… 奏楽子弟(この娘……。たぶん、特別なんだ。 意志を持って歩いている。わたしもそうだけど……。 わたしが音楽を選んだように、何かを選んだ娘なんだ) 98 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/27(日) 00 32 05.68 ID 34eUyEEP ――宝珠の伝説 見よ炎に生まれし娘有り。 かつて無きその聡き額に見えない王冠はかがやき 幼き頃からその慈愛遍く万物を照らす。 見よ大地に生まれし少年有り。 異境より訪れし女と精霊の間に生まれた忌み子。 大地の魔峰を黒く汚し災いをもたらさん。 幼き恋は精錬の炎により鍛え上げられ、誓いは胸を焦がす。 願うは翼。風に乗り大空を舞う。 大いなる神鳥に愛されし少年は、人間の血ゆえ 精霊にとっては罪となる宝をその胸に秘める。 罪の名は――。 魂の翼にして希望の言葉。時に自らを縛る鎖。 砕けたるは黒き大地のオーブ。 贖罪の子にして黒き羊の少年は、その禁じられし恋ゆえに その従兄弟にして大地の精霊王と 呪われし魔峰にて互いを滅ぼし合う。 落ちるはその身体。 死せるはその命。 しかしその悲哀、砕けし宝珠の威力もて、大地は引き裂かれる。 精霊は相争い、五家の結束は永遠に失われ、和合すること無し。 互いに争い激しい戦火を交え滅びの闇に沈む。 救世を願うは少女。 炎に生まれし、いと聡き娘なり。 少女の選びし答えは世界。 愛しき少年の指先を離し、全ての命の守り手となることを願い 残る全てのオーブをかき抱き、その身を光に変える。 生きとし生けるものの守り手、我らが恩寵の主なり。 99 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/27(日) 00 33 42.59 ID 34eUyEEP ――聖王国、聖堂地下、古代の文書保存庫 奏楽子弟「これ……かな?」 メイド姉「ええ」 奏楽子弟「なんだか、悲しい話だね。 恋をしたのが禁じられた掟のために選べない相手で、 それでも結ばれたいと願ったら世界が壊れちゃうなんて」 メイド姉「……」 奏楽子弟「こんな伝説があるのなら、あんな乱世でも 仕方がないのかな……。 世界を滅ぼした少年の子孫はいつまでもいつまでも 迫害を受けるのかも知れないね……」 メイド姉「本当にそうなんでしょうか?」 奏楽子弟「え?」 メイド姉「少年と少女が掟破りをしたくらいで、 精霊様の五つの家が仲違いなんて初めて 戦争になんかなるんでしょうか? この話って本当なんでしょうか?」 奏楽子弟「それは判らないけれど……。伝説だし」 メイド姉「そもそも、精霊様は一人です。 少なくともわたしが教わってきた精霊様は光の精霊様一人で」 奏楽子弟「それは、この炎の精霊が最後に光になって……」 カツン、コロコロ メイド姉「あ」 奏楽子弟「同じ筒に撒いてあったみたいだね。それは?」 101 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/27(日) 00 36 39.42 ID 34eUyEEP メイド姉「いえ、何でしょう。 古い受領書? 契約、でしょうか」 奏楽子弟「神殿かな」 メイド姉「建築みたいですね。四代目“琥珀の焔”と 大主教の……転移門?」 さぁぁぁぁあ!! 奏楽子弟「なっ」 メイド姉「青い……水っ!?」 奏楽子弟「うううん、濡れてない。これ、何っ!?」 メイド姉「わたしにも何が何だか」 さぁぁぁぁあ!! 奏楽子弟(やだっ。真っ青で……。溺れそうっ) メイド姉「こんなっ……」 さぁぁぁぁあ!! 奏楽子弟「金色の砂……海鳴りの降る……」 メイド姉(……なんだろう、この光っ) 奏楽子弟「メイド姉さん、手をっ」 メイド姉「え? はっ、はいっ」 チリン…… 103 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/27(日) 00 47 59.25 ID 34eUyEEP ――光に満たされた夢 光の精霊「……よ」 女魔法使い「……ん」 光の精霊「……ゆ……よ」 女魔法使い「……やっと呼ばれた」 光の精霊「……ゃよ」 女魔法使い「……手、ある。足、ある。……身体は揃ってる。 勇者から聞いていたとおり。これが精霊の夢」 光の精霊「……しゃよ」 女魔法使い「……なに?」 光の精霊「……勇者よ」 女魔法使い「違う」 光の精霊「……勇者よ。……救ってください」 女魔法使い「……」 光の精霊「……勇者よ。……この世界を……」 女魔法使い「……」 光の精霊「……勇者よ。……この」 女魔法使い「いいかげんにせぇよっ」 光の精霊「……勇者よ」 女魔法使い「じゃかしいわぁっ!!」 ドグワッシャァーーン!!! 106 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/27(日) 00 50 35.91 ID 34eUyEEP 光の精霊「……ゆ……ゆ……ゆ」 女魔法使い「哀れを誘う声でぴぃぴぃ泣きくさって 勇者の優しさにつけ込んだかぁ、このへたれっ! お前のその執着がっ。 勇者を苦しめていると何故思わんっ!」 光の精霊「……この世界……を か弱き……罪なき……人々……を……」 女魔法使い「万巻の伝承をひもとき、 ようやくたどり着いたこの光の夢で よもやこんな泣き言を聞かされようとは思わなかったっ。 精霊――っ!! 確かに世界はあんたに救われたけど、 それって本当に救うべきだったんかっ!? 救うべきでないものを救ったん違うかっ!? あんたの愛は正しいと保証できるんかっ。 あたしは……。 多分勇者の隣に立つことはないけれど 勇者を想う気持ちで、――っ。 あんたに負けるなんて夢にも思いつかんっ。 来るだけ無駄だったけれど、一個だけ云っておく。 この天地が砕け散ろうと、絶対にっ。 絶対にあんたの思い通りにはさせんからなっ」 光の精霊「……救って……この……昏い世界を……」 女魔法使い「……それが」ふぅ 女魔法使い「……お節介だというのです」 201 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/27(日) 19 20 39.77 ID 34eUyEEP ――氷の国、外れの交易村 開拓民「止まれ~!! 誰かそいつを止めてくれぇ!! 器用な少年「止まれと云われて止まる馬鹿がいるかよぅ」 開拓民「そいつは泥棒だぁ!! 誰かぁ!」 器用な少年「ははっ! 追いつけるもんなら追いついてみなぁ! へっへーんだ。こちとら食ってないんだ最軽量だぜぇ!」 メイド妹「えい」ひょい 器用な少年「え?」 グルグルグル、ズッデーーン!! 器用な少年「何しやがるんだ、この雌ガキっ!!」 メイド妹「泥棒はいけないことだよっ?」 器用な少年「うるせぇ!! だったら死ねって云うのかよっ! こっちは命がけで食ってるんだよっ!」 タッタッタッ 開拓民「捕まえてくれぇ~」 器用な少年「来やがったな! 邪魔すんな、あっち行けドブスっ!」 貴族子弟「おやおや。淑女――の卵になんて口を聞くんですか」 202 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [saga]:2009/09/27(日) 19 23 39.95 ID 34eUyEEP 器用な少年「邪魔すんなよ、洒落者の旦那。 ってか、あんたも財布をおいていくか?」チャキッ 貴族子弟「そんなちっぽけなナイフで何をするんです?」 メイド妹「ううっ。貴族のお兄ちゃん」 器用な少年「はんっ! でかい口聞くなよっ」 貴族子弟「エレガントさが足りませんよ、君」 ヒュバッ!! 器用な少年「え?」 メイド妹「ひゃっ!!」 器用な少年「あ、あ、ああっ!!」じたばたっ 貴族子弟「早くその下半身を隠しなさい。むさ苦しい」 器用な少年「お、お前が切ったんじゃねぇか」 貴族子弟「えい」 ぼくっ 器用な少年「#’〒☆♭()ッ!!!」 貴族子弟「つまらぬ物を蹴ってしまった」 メイド妹「泡吐いてるよ? この子」 開拓民「はぁっ! はぁっ! き、貴族様でしたか。 ありがとうございます!! こいつは泥棒なんですよっ!」 貴族子弟「いえいえ、こっちの都合もありますからね。 このあたりに詳しそうな道案内が一人欲しかったんです」 206 :以下、VIPにかわりましてパー速民がお送りします [sage]:2009/09/27(日) 19 46 18.11 ID 34eUyEEP ――鉄の国、王宮、大広間 鉄腕王「……そんな訳で、魔族との一端の交戦は 我が国守備部隊により、峠道において回避された。 だが、我が鉄の国と白夜の国は山と大河を隔てて 長い国境線を接している。 人も通わぬような辺境地帯を抜けて、 今も魔族の侵攻が進んでいると見て間違いないだろう」 氷雪の女王「……」 女騎士「鉄の国の軍備はどうなのだ?」 鉄腕王「数字だけで云えば6万に迫る数だが、 その多くは開拓民や難民など、名ばかりの軍人に 過ぎないし、訓練らしい訓練など、まだやっと手をつけたばかり。 戦場に出せる数は、全てかき集めても1万がやっとだろうな」 氷雪の女王「我が氷の国は3000と云ったところ」 冬国士官「冬の国は7500が良いところでしょう」 冬寂王「それでも、三年前に比べれば倍にも増えているが」 鉄腕王「だが、どの国も急激にふくれあがった人口の治安維持や 国境警備に必要な部隊もあろう。 それらを差し引くならば、動員したとしても三ヶ国合わせて 半数の1万に届くか、届かぬか」 氷雪の女王「問題は、魔族の軍勢がどの程度いるかですが……」 冬寂王「我が手の者の情報に寄れば、 今回魔界から突如侵攻してきた魔族は、 蒼魔族と呼ばれる魔界でも随一の過激派、 好戦派と云える部族だそうだ。 率いるは刻印王とよばれる若き王で前王を抹殺の上、 軍を掌握し、その精鋭を率いて人間界へ流れ込んできた。 その数は2万と5千」 ページトップへ <前7-6へ|次8-2へ>